百八十話 東京に在る巴里

巴里の大衆食文化を体感できる店屋がある。
この手の商売では草分的存在なので御存知の方も多いと思う。
“ AUX BACCHANALES ”
一九九五年に原宿の一等地で開業したのだが、その店は二〇〇三年に閉じた。
元々の店は無くなったが、その後、銀座や赤坂や品川に店を増やしていった。
今では、四〜五店舗あるんじゃないかなぁ。
それでも、俗に云うチェーン店みたいな統一された感じはなくそれぞれが異なる。
僕は、品川の店によく行く。
宿から近い事もあって、朝飯だったり、誰かと一緒じゃなく晩飯を簡単に済ませたい時など助かる。
店の形態は、Café と Brasserie と Boulangerie が一緒になったような感じだ。
要は、喫茶店と居酒屋とパン屋が一軒にまとまって営まれていると解してもらえばよい。
味・内装・食器・品書き・給仕・BGM等全てが巴里と同じだ。
巴里風ではなく、巴里そのものである。
それも日常のごくありふれた巴里が、“ AUX BACCHANALES ” にはある。
給仕人にも仏人がおり、訪れる客にも在京仏人が多い。
巴里は不思議な街である。
塵々していて、乱雑で、住人も、生活習慣もなにかと難解で、お世辞にもとっつき易い街ではない。
それでも長く付合うと時折だが無性にその街の空気を吸いたくなる。
家の近所にいるパン屋のオヤジも修業時代を巴里で過ごした。
やはり巴里禁断症状が発症することがあるらしい。
そんな時、新幹線に乗って訪れるのが “ AUX BACCHANALES ” なんだそうだ。
それ以上でも、それ以下でもない、普段着の巴里が東京にある。
ひとつ注文があるとしたら、Boulangerie を八時に閉めるのを止めてもらえないかなぁ。
仕事終えて、翌朝のパンを買うのに立寄るといつも閉まってんだよねぇ。
せめて九時でお願いできませんか?
Boulangerie の閉店時間は午後八時って、これも巴里の決まりと言われりゃそれまでだけど。

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