百九十二話 LEGEND OF MECHANICAL DESIGN

GUNDAM 世代ではないのだが、この方の御高名はさすがに存じあげている。
大河原邦男。
Mechanical Design という耳慣れない言葉を職業として成立させ、その偉業を世界に示した人物。
Mechanical Design とは?
アニメーションの世界では、人物以外に乗物や銃等の小道具から始まり果てはロボットまで、
数多くの機械的なアイテムが登場する。
時には、主役の人間と同等、いやそれ以上の印象や感動を観る者に与える。
そういった機械的なアイテムを、設定に応じてデザインし具現化していく職業を意味している。
一九四七年生まれの大河原さんは、今日まで膨大な量の仕事をこなしてこられた。
現役ながら伝説と称えられるその業績を、体系的に一覧出来る機会に恵まれる。
兵庫県立美術館 “ 超・大河原邦男展 ”
なにより完成までの過程が面白い。
初期設定から基本設定へ、初稿から修正稿へ、そして準決定稿から決定稿へと至る。
アニメーションは、膨大な労力と資金が投下される失敗の許されない事業でもある。
そこには、業種も立場も微妙に異なる多くの事業会社やプロダクションも参画する。
製作者の表現意図、スポンサーの意向、興行会社の収益、広告媒体での効果、関連商品の販売など。
それぞれの業種で、それぞれの立場で、都合もあれば、欲もある。
譲れない者同士が、言分を主張し合う修羅場をくぐってひとつの作品に仕上がっていく。
まぁ、企業が絡めばどんな業種の制作現場でも大なり小なり似たようなものだろうけど。
企業の大事に係わるデザインを請負うと、僕等の稼業も例外ではない。
たったひとつのデザインに、何度も繰返される企画開発会議の席上で。
最初は、⎡先生⎦ から始まって、次は ⎡蔭山サン⎦、そして ⎡アンタ⎦、最後の方では ⎡オマエ⎦ となる。
⎡いい加減にしろよ!俺は、あんたらの手下じゃねぇんだぁ!⎦
⎡そんなに嫌で、いじくり回さなきゃならねぇんだったら、俺のデザイン使うなよ!⎦
と言ってしまえば一銭にもならないので堪えるんだけど、ストレスが相当な度合いで襲いかかる。
そこで頼りになるのが、デザイン画に込めた説得力なんだろうと思う。
だから今でもデザイン画には手を抜かない。
工場の人間しか見ないとわかっていても、いい加減な絵を描くとなんだか不安になる。
プロデューサーの吉井孝幸氏が、図録にこうコメントされていた。
⎡大河原さんのデザインは、企画を通すための武器のひとつでもある⎦
展示されている原画には、圧倒的な説得力があり、まずはそこに驚かされる。
多分、要求を吸収する理解力と要求に応ずる技量が群をぬいて高いんだろうと思う。
そうでなければ、こんなデザイン画は描けないはずだ。
本展は、展示構成に沿って一章から七章に区分されてあって、
その最終章の七章は、⎡大河原邦男のいま⎦と題し、現在進行形の仕事を取上げていく。
“機動戦士 GUNDAM SEED ” の主人公キラが搭乗する機体をデザイン化する過程が紹介されている。
福田己津央監督のイメージスケッチには、大河原さんへ向けた要望が走書きされてある。
⎡天使的な美しさと、兵器的な凄みを持った機体としたい⎦
監督の願いを知った上で、改めて決定稿として承認された原画を見る。
ここしかないというポイントに、デザインを落としてある。
的確で、さらに優れた別案が産まれるかもしれないという期待を完全に封じたデザイン。
大河原邦男って、凄ぇなぁ〜。
六十六歳になる今も第一線で圧倒的な存在感を放っておられる。
これじゃぁ、後に続く方々も大変だわ。

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