あなた変わりはないですか
日ごと寒さがつのります
着てはもらえぬセーターを
寒さこらえて編んでます
一九七五年、日本歌謡界の巨匠 阿久悠先生作詞、おんなの未練を綴った名曲 “ 北の宿から ” です。
Million Seller Single を記録し、翌一九七六年暮れには、日本レコード大賞の大賞受賞曲となる。
しかし、このセーターには、 “ 北の宿から ” とは異なる親から子への情愛が込められている。
北の地から、東京で暮らす息子の世界的な活躍を願う母の想い。
息子は、Taakk デザイナー 森川拓野君。
今、投資すべき世界の新鋭デザイナーとして、海外サイトで紹介されるほど注目されている。
Issey Miyake Men から独立後三年目にして、世界のトップ・ランナーに名を連ねるまでになった。
そして、二〇一四年冬コレクションでひときわ目を引いたのが、これ。
Hand Knitted Chunky Sweater
編手は、秋田在住の森川君のお母さんだ。
僕は、コレクション・ラインを見た時、このセーターに飛びついた。
Chunky と呼ばれるずんぐりとしたフォルム、極太の縄編みによる凹凸が映す陰翳、暖かな色合い。
モードな洗練と手の温もりが不思議な調和を保って、一枚のセーターに在る。
「これ良いよ、なんかよく解んないけど、このセーターには妙に引かれるわ」
たまたま隣にいた doublet デザイナーの井野君が言うには。
「これ、森川のカァチャンが編んだんですよ」
「だって、そうじゃなかったら、こんな値段無理でしょ」
「反則技ですよ!だから仲間内では、恐怖のマザコン・セーターって呼んでるんです」
多分だが、ただのカァチャンではないんだろう。
スライバー状の極太無撚糸を自在に操り、素早く正確に編目を拾っていくというからには、
相当に熟練された編手なんじゃないかと思う。
森川君に訊くと、このセーターは、当初コレクションには含まれていなかったらしい。
仕上ったコレクションを眺めた時、印象として少し弱いと感じたのだそうだ。
何かが足りない。
そこで登場したのが、 Super Mama である。
息子の大事に、 窮余の一策として母が編んだ Chunky Sweater によってコレクションは完成する。
良いセーターだし、良い話だ。
このセーターには、単なるデザインを越えた値打ちがあって、その魅力は銭では量れない。
僕も有難く大切に着させて戴こうと思っている。
“ さびかったべー まんずぬぐだまれ ”
秋田言葉では、こんな感じなのだろうか?
北国の冬の寒さは、容易には想像できないけれど。
どうぞご自愛ください。御苦労様でございました。感謝です。