二百十三話 捨てる神 と 拾う神

秋冬コレクションを始める時、 いつも思う事がある。
デザイナーの多くは、アウター・ウェアーの開発に血道を上げて取組む。
ランウェイでも映えるし、いじくる箇所も多いし、売価も高いし、注目度も高い。
まぁ、要するに創り甲斐のあるアイテムなんだろうけど。
力の入れ具合といい、アイテム構成比率といい、あまりに偏った仕事振りが目立つ。
特に、日本人デザイナーには、 そうした傾向が強いように感じる。
コレクションを眺めると、裸にコートを着せて歩かせるつもりか?というようなのもある。
御客様にとっても、店屋にとっても、困った始末なのだ。
おい、聞いてんのかぁ?
中野靖、てめぇのこったよぉ!
こっちは、その穴埋めに東や西に駈けずりまわって。
下げたくもない頭をぺこぺこと、いい加減にしろって言うんだよ!
そんな悲しい現実を、あっちこっちで愚痴ってると。
捨てる神もあれば拾う神もあるもので、ひょんな事からひとりのデザイナーを紹介された。
JOINTRUST のデザイナー藤田将之君。
コレクション・ブランドでの経験を持ち、巴里コレクションにも助っ人として参画していたらしい。
だからという訳ではないが、確かな腕を持ったデザイナーに違いはない。
穴埋めとか言って取扱うのも失礼な話だが、正直に現状を伝え、サイズ感についても調整して戴く。
この藤田君というひと、もの静かで繊細そうに見えるが、何事にもぐだぐだ言わず即決する。
実に気持ちの良いひとである。
取り敢えず、今期については、シャツ、ニット、パンツを中心に展開しようと思う。
なかでも、このシャツ。
Vintage Ecology Bag を素材として採用している。
その素材を、複雑な縫製仕様で縫い合わせ、漂白加工を施しシャツへと仕立てる。
独特の表面感を生んでいて、魅力的なシャツだと思う。
Remake 製法にありがちなボロさや汚さは全くない。
検品の際に、とにかく運針がドレス・シャツ以上に細かく丁寧な事に驚かされた。
事前に、生地、縫製ともに強度は充分だと聞かされていたが、改めて納得する。
良いかも、いやこれは良い。
この調子だと、次に仕上ってくる Trouser も期待できそうだ。
ほんと、捨てる神あれば拾う神ありである。
ところで、捨てる神の方だが。
その有余る才能を、もうちょっと均等に振分けて貰えませんかねぇ。

中野靖先生、ほんとお願いしますよ。

 

カテゴリー:   パーマリンク