三十七話 “ 花の醍醐 ” に潜む危険。

ちょっとした事情から、京都の山科に通う事になる。
少なくとも、毎月一度は来なければならない。
今まで馴染みの薄かった土地だが、なかなか良い所だと知る。
世界文化遺産に登録された寺院もある。
大伽藍を擁する真言宗醍醐派の総本山 “ 醍醐寺 ” である。
少し時間が空いたので、行ってみる事にした。
静謐な真言密教の空気に包まれる。
太閤が愛でた醍醐の桜。
憲深林苑の藤。
三宝院の紅葉。
残雪に咲く紅梅。
⎡花の醍醐⎦と呼ばれ、四季を通じて花が参拝に訪れる者を迎えてくれる。
しかし、盛夏の醍醐寺は、なぁ~んの花も無い。
そして、花に誘われてやって来る厄介な人達も、だぁ~れも居ない。
オバチャン達だ。
この種の圧力団体は、
一人二人は、何の問題も無い。
十人二十人も、まだ我慢出来る。
それを上回る百人二百人となると、少し怖い。
さらに千人二千人に至ると、呼吸が困難になる。
空気が吸い取られるからかも知れない。
数年前、恐ろしい目に遭った。
宇治に紫陽花で知られる “ 三室戸寺 ” という山寺がある。
僕は、始めて知った。
オバチャンの背丈と紫陽花の草丈が同じだという事を。
オバチャンの顔の大きさと紫陽花の花の大きさが同じだという事を。
で、何を見たかというと。
山寺の斜面を埋め尽くすように数千個の花を付ける紫陽花。
その花と花の間に、胴体が紫陽花の葉で隠されたオバチャンの顔だけが覗く。
まるで紫陽花が、花とオバチャンを同時に咲かせたような。
紫陽花、紫陽花、オバチャン、オバチャン、紫陽花、オバチャンみたいな。
怖ぇ~。
写真を撮って現像してみる。
怖ぇ~。
これは、もうダイナミックな心霊集合写真だ。
かくの如き危険が、花の名所と言われる場所には潜んでいる。
盛夏に真冬、これが正しい寺社参拝の頃合いだ。
⎡ 醍醐の花見 ⎦ 昔、太閤、今、オバチャン。
ねっ、仁王さん、睨んだところでどうしようもないですもんね。
オバチャンは当節の天下人、最強無敵の存在ですから。
もうすぐやって来ますよ。
怖いですねぇ〜。
お大事になさって下さい。

合掌。

PHOT : 醍醐寺 西大門 吽形 金剛力士像

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