百二十三話 巨神兵東京に現わる。

巨神兵が東京に現れて首都壊滅。
東京タワーもこんな具合にへし折れる。

巨神兵のプロトンビームはすべてを破壊し尽くす。
自衛隊の応戦もむなしくこの始末。
スタジオジブリ最新特撮短編映画⎡巨神兵東京に現わる⎦七月一〇日公開。
さすがに封切り初日には無理だったが二週間ほど経った平日に時間が空いたので観に行った。
東京都立現代美術館。
館長庵野秀明特撮博物館 —ミニチュアで見る昭和平成の技— 内の特設会場で上映される。
製作は⎡Evangelion⎦の庵野秀明、巨神兵はスタジオジブリの宮崎駿、監督は⎡Lorelei⎦の樋口真嗣。
どうしても、この九分三秒の特撮短編映画は観なければならなかった。
僕等は、円谷プロダクションの特撮で育った。
特撮の神様円谷英二が創出する世界に思考の根幹があったと言っても過ぎることはない。
だから今でも⎡特撮⎦という言葉そのものに反応する。
庵野秀明は、製作発表の席上⎡ CG を一切使わない最後の特撮作品になるだろう⎦と述べた。
⎡へぇ〜、特撮はもう映像制作の世界でそんなところに追いやられているんだぁ⎦
僕は、特撮とCGはまるで別物として語られるべきだと思っていたけど。
破壊美というか滅びの美学というか特撮には他で表現出来ない趣がある。
全くの私見だが。
CGにせよ、アニメーションにせよ、どちらも破壊現象を想像的に描写しているに過ぎない。
どんなに精緻に描いてもその事に変わりはない。
一方特撮には、仮想ではなく実際の創造と破壊が存在している。
特撮は破壊対象を造形物として造りあげるところから始まる。
そのうえで、破壊者の特性に応じてさまざまな手法を考案し破壊に及ぶ。
膨大な手間と時間を懸けて造り自らの手で葬る。
究極の自虐行為ともいえる。
同じ映像は二度と撮れないという一発勝負的な潔さと儚さが独特の空気感となって漂う。
CGやアニメーションが追求する仮想現実にはこの空気感がない。
また特撮は極めて日本的でもある。
極小化技術は日本のお家芸であり、特撮のミニチュアにも発揮されている。
スケールダウンされたビルの窓に映り込む風景まで再現していく。
一瞬の破壊シーンで観る者が気付くことはありえない。
合理的ではない病的な無駄の積重ねが単なるジオラマを越えて厚みを増し特撮の風景を創りだす。
特撮はその精神性においても日本的である。
滅びゆく姿に美を求める。
どうやったら美しく命を絶てるかと作法まで細かく取り決めた民族は日本人だけだろう。
散る花を愛でる感覚もまた日本人固有である。
あらゆる技法を集約して美しい滅びを撮る。
この完全なる創造と無欠の滅びこそが特撮の魅力であり、日本の誇る職人芸だと思う。
なので、円谷英二から現在まで受継がれた特撮史を閲覧出来る今回の企画展は素晴らしい。
加えて、最後の特撮作品と聞いて観ない訳にはいかない。
な〜んてことを傍にいる嫁に熱く語っていたのだが相手が悪かった。
⎡もっともらしい事言ってるけど⎦
⎡さっきまで、やれウルトラマンだ、あっマイティジャックだとか言って走り回ってたのは誰?⎦
⎡どうでも良いけど⎦
⎡ガチャガチャの前でわたしに人形ねだるのやめてくれない?⎦
⎡ガチャガチャって言うな、海洋堂のカプセルトイだし人形じゃなくてヴィネット・フィギュアだろう⎦
⎡意味わかんないし⎦
入場前コインロッカーに預けたリュックに財布を入れたままだった。
フィギュアは三種類あって本当は三つとも欲しかったんだけど。
一回のガチャしか頼めなかった。
隣のオッサンはガチャガチャガチャガチャと大人買いしてやがる。
⎡お一人様五回までって書いてあるだろう、大人なんだからルール守れよぉ⎦
⎡で、どうだったの?楽しかったの?⎦
⎡うん、まぁ、おかげさまで⎦
⎡じゃぁ、帰るよ⎦
⎡いつまでも眺めてないでガチャガチャをリュックにちゃんと仕舞って!⎦
⎡こらっ、ウルトラマン手拭を首に巻いちゃ駄目!⎦
⎡誰が見てるかわかんないでしょ⎦
とか言合ってると。
入口の方から、今の東京コレクションを賑わしているデザイナーがやって来た。
先日、顔を合わせたばかりだったが互いに声をかけずにすれちがった。
なんなんだろう?この一抹のうしろめたさは?

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