四十一話 蕎麦会席

山科の毘沙門堂を右手に、清流を下に眺めながら脇を抜けると竹薮にでる。
薮に隠れるように、欅で造られた茅葺き屋根の庵がある。
庵には、春秋山荘 “ 蕎麦 高月 ”と書かれた暖簾が掛けられている。
親店は、高台寺の名料亭 “ 馳走 高月 ”である。
それにしても、こんな隠れ里みたいな場所に誰が来るんだろう。
暖簾をくぐって店内に。
⎡本日満席になっておりまして、囲炉裏端のお席でもよろしおすか?⎦と花番の女性。
⎡よろしおすけど、この人達どっから湧いてきたの?⎦と訊きたかったが我慢した。
平日の昼過ぎに、途中人影すらない薮の中に、人が集まる。
どうなっているんだろう。
其れはさておき、僕は蕎麦好きである。
途中カレーを、挟んで戴ければ一年間は文句を言わない。
しかし、会席はダメだ。
早食いで人に遅れをとった事がないし、カレー等は喉越しを味わう飲み物と思っている。
なので、テンポが合わない。
蕎麦会席とは?
一番の好物を、一番苦手なスタイルで喰うという事になる。
それって、どうよ。
まずは、枝豆豆腐のお通し。
枝豆は擦り流しを葛で固め、中に豆をそのままに仕込む。
向付は、よこわとしま鯵の刺身を梅酢で戴く。
刺身を梅酢でというのは初めてだったが、サッパリとしていて良く合う。
そして、いよいよ蕎麦。
五・三直打ちとあるが、白く、細く、上品な喉越しで締め方も程良い。
何よりも驚いたのは、蕎麦出汁に大きな魚の切り身が入っている。
鮎だ。
この鮎出汁は、本当に素晴らしい。
こんなに柔らかなあたりの蕎麦出汁は記憶に無い。
しかし、この切り身を喰うべきか、除けるべきか?
隣で大人しく喰ってる嫁を見た。
⎡えっ、何? 魚? 喰ったよ。マジ旨いよ。⎦
⎡だって、蕎麦浸けるのに邪魔じゃんか。⎦と嫁。
あ~、なるほど、そっち方向ね。
会席で云う “ 鉢魚 ” を兼ねてということなんだろうか。
強肴は、野菜の炊き合わせ。
歯ごたえと味、野菜それぞれの個性に沿って丁寧に調理され盛られている。
この皿にも、妙なものが添えられている。
鰻の有馬煮を生姜で巻いている。
もっと沢山貰って、白飯で喰いたいほどに美味しい。
食事は、苦瓜入り鯛飯のおむすびに、止め椀としてぶっかけ素麺。
蕎麦会席の止め椀に素麺?
変わっている。
そして、水菓子で終える。
ごちそうさまでした。
さすがは、高台寺 “ 馳走 高月 ”
行ったこと無いけど。
そして、⎡そりゃ、ここまで来るわなぁ~。お客さん。⎦と納得する。

京都山科 屋号:春秋山荘 “ 蕎麦 高月 ”

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