四百十五話 心遣い

振り返ってみると。
顧客様に支えられてこれまで暮らしてきたのだとつくづくとそう想う。
商いが、どうのこうのということでは済まされない。
身体の具合が悪い。
親が逝った。
不動産を売買する。
家を建てる。
など。
門外漢故に自身の手に余るという大事があれば、素早く手当てしてくださる。
それも、それぞれの業界で知られた一流の方々がである。
とても有難いはなしなのだ。
手に余るような大事じゃなくても、気にかけてくださる。
先日も顧客の方に。
「忙しくて行けないけど、目白の永青文庫でやってる春画展だけは観たかったなぁ」
そう愚痴った次の週末、その顧客の方が来られて。
「これ、ついでに買ってきたから」
大英博物館に特別出品された春画展の図録だった。
ついでと言われるが、この分厚い図録一冊一キロ五◯◯グラムの重さがあって。
ご自身の分もとなると図録だけで三キロである。
とんでもない面倒をおかけした。
また、こんなものも届けてくださった。
京都、東本願寺門前近くに明治三◯年創業のおはぎ屋があるらしい。
今西軒という屋号で、おはぎだけを商ってきた老舗和菓子屋で。
つぶ餡、こし餡、きなこ餡の三種類のおはぎがあるのだそうだ。
だが、どれも朝一◯時には売切れるのだという。
なので、朝京都で求められて大阪に届けていただいたことになる。
そう聞くと、店内でパクリとやってご馳走様というわけにもいかない。
海辺の家に持ち帰って、今は亡き京の名工が拵えた器に盛っていただくことにした。
なるほど。
おはぎはおはぎなのだが、紛れもない京菓子としての品の良さが伝わってくる味である。
おはぎ屋の近くに錺屋という宿があって、此処のおはぎを目当てに泊まるひともおられるとか。
希少な味を有難うございました。
それにしても、ひとがそれぞれ何に悩み、何に喜び、何を欲するか?
心内のほんとうを推し量るのは難しい。
それだけに。
行き届いた心遣いには、金銭の高を超えた値打ちがあるのだと思う。

感謝です。

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