三百十七話  Jesus Crisis!

Wifi の薄い Strasbourg からお便りいたしております。
シャツ、遅くなり申訳ありません。
来週になります。 

平然と、悪びれることもなく、あたりまえのように。
夜明け前、こういう fuckin message を送りつけてきた奴がいる。
犯人は、コツメカワウソではありません。
ANSNAM 中野靖です。
一〇月に入って、世間の誰しもが秋の気配を感じているこの時期に。
コートやジャケットやセーターならまだしも、シャツすら入荷がないというお寒い状況の中。
当の本人は、独仏国境の街 Strasbourg をブラついている。
運河沿いの食堂にでも入って、白葡萄酒を片手に、
Alsace 地方の名物料理 Choucroute なんぞを突ついてやがるに違いない。
そして、こんな事もつぶやいているかもしれない。
「こんな景色を眺めながら、酒飲んで、飯喰ってたら、浮世の雑事なんか忘れちゃうよねぇ〜」
悪かったなぁ!こっちは、その浮世の雑事で飯喰ってんだよ!
あぁ、想像しただけでも腹立たしい! 
大体に於いて、このシャツにしたってそうだ。
一〇種類ほどの異なるシャツ生地を、ダイヤ状にパッチワークしながら仕立ていくという。
パッチワーク生地を創るのではなく、シャツのカタチに繫いでいくのだ。
半年前に、俺は訊いたよなぁ?
「こんな仕様のシャツを、一体何処の誰が縫うんだよ?」
「大丈夫ですよ、根気さえあれば、工賃何倍か増しで払えばやってくれますよ」
「俺だったら、ぜってぇやらねぇけどな」
 そして、数ヶ月後。
「あのシャツ、縫い場が、幾ら貰ってもやんないって言うんですよ」
「だから訊いたじゃねぇかよ!で、どうすんだよ?」
「大丈夫ですよ、知合いの仕立職人と僕のふたりで、アトリエ製作しますから

どっか別の変態デザイナーからも同じ台詞を聞いたような。
とにかく、大丈夫じゃないことだけは確かだ。
さらに、一ヵ月後に届いたのが、この fuckin message というわけである。
そして、顧客の方に。
「そういう事情でして、もう僕にはなんともしようがないんです」
「 まぁ、そうカッカしないで、問題は納期じゃないでしょ
「えっ?」
「出来るかもしれないし、出来ないかもしれない、それでいいんだよ ANSNAM は 」
「そんなんで良いんですか? なんか間違ってませんか?」
「そりゃぁ間違ってるよ、でもそんな事言出したらブランドそのものが間違いなんだから」
「その間違いを正しちゃったら普通のブランドじゃん、買わないよそんなの

Jesus Crisis ! 世の中、何かがおかしい。

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