三百十六話 Normcore という考え方

“ 流行を追わない服が流行る ”

二〇一四年以降の流行予測について、こう雑誌に記載されていた。
まことに、この業界らしい頭の悪そうな表現ではあるが。
言いたいことは何となく解るし、一応業界の人間として頷けるし、まぁ、外れてもいないだろう。
記事を書いた編集者の言分の背景にあるものは何か?
少し前から、New York の業界関係者の間で “ Normcore ” という言葉が交わされるようになった。
昨年くらいから日本でも聞かれるようになったが、当時は聞き馴れない業界用語だったように思う。
“ norm ” は標準、“ core ” は中核、このふたつを合わせた造語が “ normcore ” である。
“ 究極の普通 ” みたいなに和訳すると感じが掴みやすいかもしれない。
当時は、brand icon を冠した服や、luxury な装いが市場を席巻していた。
ついこの間のことである。
そんな中、次の潮流を考えた時、この言葉に行着いたんだろう。
意味するところは、主張に固執するデザインの否定であり、華美な装飾や演出への抑制である。
素材のもつデリケートな風合や、縫製の緻密さや、内部構造など。
視点を、服そのものへの細やかな配慮へと移さなければならない。
Musée du Dragon なりに “ normcore ” を解釈し実現するとしたらと考えた時。
表面的なデザインより、服の本質へのアプローチを怠らない人やブランドが必要となる。
付合いのある十人ほどの顔と名前が思い浮かぶ。
四人は国内に、残りは欧州に居て、国内勢のひとりが Vlass Blomme の桜間頼子さんだった。
奇人変人に属する他の男連中と比べて、才色兼備な女性デザイナーである。
最初の出逢いは、五年前の巴里。
麻に特化したブランドを始められたばかりの頃で、時節柄少し他から浮いた存在だったように思う。
麻と言っても、Flanders 地方で栽培される Kortrijk Linen だけを用いた服創りだと聞いた。
元々 knitting のエキスパートだが、織と編の双方に卓越した技術を備えておられる。
デビュー以来現在まで、融通の利かない麻を軸に、あらゆるアイテムを創ってこられた。
それらのアイテムは、華やかさには欠けるかも知れないが、誠実な印象を窺わせる。
長い間服飾業界に身を置いてきた中で、想うことがあって。
ヒトの身の丈に沿って、日々の暮しに邪魔にならず、ずっと寄添ってくれる服は存在するのか?
そして今、そんな頑張らない服が、求められているのかもしれない。
Vlass Blomme の服に袖を通すと、“ 究極の普通 ” という言葉が、身近に感じられるような気がする。
“ Normcore ” という考え方。

創る側にとっても、着る側にとっても、とても難解です。 

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