月別アーカイブ: September 2012

百三十七話 ある出来事

閉店間際に mastermind JAPAN のデザイナー本間正章君がやって来た。 ある用件で大阪に出向いてある出来事を目にした。 僕は見なきゃ良いのにと案じていたのだが見てしまったからにはしょうがない。 当然のことながら憤懣やるかたない顔をしていた。 ある用件が何である出来事が何かは内輪の話だから此処では明かさない。 だがこれだけは言っておく。 本間正章という人間は masetermind JAPAN というブランドを筋を通してやってきた。 誰であろうと全ての事柄について徹底して筋を通す。 愚直を通り越えて原理主義者に近いと思う。 その姿勢こそが mastermind JAPAN の源泉であり全てなのだ。 デザインが良いとか素材が特別だとかそんな事だけではない。 そしてその姿に共感した人達に支えられて今日の mastermind JAPAN がある。 僕も立場は違えど最初の頃から係わった者のひとりとして最後まで筋を通さなければならない。 正直ちょっと辛いこともあるんだけどね。 それが mastermind JAPAN なんだから。 でもそこら辺の事情を一番理解してくれているのは誰あろう御客様なんじゃないかなぁ。 悔しい想いもあるんだろうけれど。 もうそれだけで充分じゃん。 機嫌治して飯でも喰おうよ。

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百三十六話 隣国と隣人

向こう岸に棲む隣人なんだけど。 もう完全に頭にきちゃってるよねぇ。 いろんなもの壊したり火つけたり罵ったり拉麺ぶつけたり。 御苦労様です。 でもまだすっきりしてないよねぇ。 多分だけど何したって永遠に気分晴れないよ。 何故かって言うとお互いに隣国だから。 ちょっと前にピースフルな名前のとぼけた首相が言った。 ⎡お隣同士だから友愛に満ちた関係を構築しましょう⎦ あんた馬鹿ですか? この人どうやってスタンフォード大学で博士号修得したんだろう。 有史以来東西に於いて隣国同士が仲良くなった事なんて無いんじゃないの。 英国と仏蘭西、仏蘭西と独逸、印度とパキスタン、米国とメキシコ、中国と韓国など。 み〜んな仲が悪い。 中南米はよく知んないけど、アフリカ大陸なんか今でも血まみれでしょ。 だから無理なんだよ。 何をどうしたって。 報道で店を無茶苦茶に壊された大手スーパー・マーケットの責任者の方が訴えていた。 ⎡今迄この国に様々なかたちで貢献してきたのに裏切られて悔しいし信じられない⎦ 残念なコメントだね。 出来れば胸張ってこう言って欲しかったんだけど。 ⎡他国で商売する以上こういった事態は覚悟の上です⎦ ⎡それでも何があろうとこの地で姿勢を変えずにやっていきます⎦ 他国で稼いで生きていくってそういうことなんだろうと思う。 自国の流儀など一切通用しない。 僕自身長年務めて世話になった会社もそうやって中南米で事業会社として根を張ってきたと訊いた。 日系移民の方々の多くも言葉に出来ない理不尽な環境に耐えて異国を故郷とされた。 尻尾を巻いて逃げ帰るんなら別ですけどそうじゃないんだったら意地を張った方が良策でしょう。 大変苦しい御立場だとは察しますがこんな時に本音を吐露したら負けですよ。 一方でこの景気の悪い時に経済に与える影響が心配だという人もおられる。 だけどお互い一歩も引けないんでしょ。 だいいち吐いた唾は飲めない。 だったら食い扶持が減るのはしょうがないじゃん。 それ位の辛抱もできないんだったら最初から一丁前の事を言ったりやったりするもんじゃないよ。 どのみち仲良くなる事はないんだとしたら。 それを承知で喧嘩の加減を互いに学びながら生きていくしかないと思うけど。 喧嘩の加減は喧嘩の中でしか身につかない。 そう考えると。 こうやってやりあいながら共存の間合いを身につけていくのも悪くない。 互いに引っ越しも出来ないしね。 … 続きを読む

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百三十五話 御蔵入

コレクションが披露される現場では。 僕が良い良いと思っても他社や他店がちっとも良いと思わない時がある。 創った本人と僕だけが良いと思っているという極めて御寒い状況である。 まぁ、披露された全てのアイテムが駄目だというような悲劇は滅多と起こらないが。 もうそうなると御寒いのを通り越えて凍え死ぬしかない。 ただ、ひとつのアイテムが Musée du Dragon 以外の何処からも発注されないなんて事はままある。 どうするかの選択肢はふたつ。 ひとつは、一店舗の発注数量では生産単位にはならないので潔く売るのを諦める。 当然そのアイテムは御蔵入となり人目に触れることはない。 もうひとつは、生産可能単位まで一店舗の発注数量を引上げて売る。 これまた当然の事だが売れなければ大枚の銭を溝に棄てるという惨めな結果に終わる。 玄人が見て十人中九人が売れないと踏んだモノをさらに数を増やして発注しようというのだから。 あまり利口な選択とは言いがたい。 ANSNAM の展示会が終了して暫く経った頃デザイナーの中野靖君から電話があった。 ⎡どうもで〜す⎦ ⎡なに?どうしたの?また碌でもないことじゃないだろうな⎦ 案の定碌でもない事だった。 ⎡あのシルク・ストールなんですけど没ですね⎦ ⎡えっ、発注して貰えなかったの?何で?⎦ ⎡知りませんよそんなこと、結果そういう事だったんですよ⎦ ⎡畜生 あんなに気に入ってたのに⎦ ⎡ちゃんと説明したの?⎦ ⎡誰に何をですか?⎦ ⎡お客さんに商品のことをに決まってるだろうがぁ⎦ ⎡しませんよ、いちいちそんなこと⎦ ⎡いったいその無駄な自信はどっから湧いてくんのかなぁ?⎦ ⎡説明しなきゃ解んないじゃん⎦ ⎡………………………。⎦ ここで言ってはならない台詞を吐いてしまった。 ⎡いいよ、もう⎦ ⎡生産可能数量分をうちで発注するから⎦ ⎡マジですかぁ?⎦ ⎡それじゃぁひとつ頑張っちゃいますかぁ?⎦ ⎡いやいや言っとくけど頑張るのは、あんたじゃなくて俺だから⎦ … 続きを読む

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百三十四話 作家が挑んだサンドイッチ

⎡そろそろ昼飯を作ろうかなと思ってたんだ。 (中略) 紀ノ国屋のバター・フレンチがスモーク・サーモン・サンドイッチにはよくあうんだ。 うまくいくと神戸のデリカテッセン・サンドイッチ・スタンドのスモーク・サーモン・サンドイッチに近い味になる。 うまくいかないこともある。 しかし目標があり、試行錯誤があって物事は初めて成し遂げられる。⎦ ノーベル文学賞作家、村上春樹先生の長編小説 ⎡ダンス・ダンス・ダンス⎦の一節に、 その店屋は登場している。 一九四九年の神戸。 ひとりの外国航路の船乗りが北欧でスモークサーモンやハムやソーセージの製法を学び帰国した。 そして、港町にある坂道のなかほどで一軒の店屋を開く。 坂道の名を冠した日本初のデリカテッセンである。 ⎡ Tor Road Delicatessen ⎦ 以来ずっと地元で愛されてきた。 まず神戸に住まう人で名を聞いたことがないという方は少ないと思う。 今ではちょっと有名であれば何でも並べたがる百貨店のおかげで大阪辺りでも買えるようになった。 ありがた味が薄れたと嘆く人もいる。 だが、このトア・ロードの坂を登らないとありつけない喰いものもある。 店左側にある薄暗く狭い階段を二階へと上がるとサンドイッチ・スタンドになっている。 先生ご推奨のデリカテッセンのサンドイッチは昔から此処でしか喰えない。 いつだったか、随分前のクリスマス・イブに義理の母が大きな包みを抱えて神戸からやって来た。 包みの中身は、 スモーク・サーモンやロースト・ビーフやチーズ&ハムがそれぞれに挟まったサンドイッチだった。 見た目には味も素っ気もなく三種類が別々にラップで包まれている。 サーモンならサーモン、ビーフならビーフ、余計なものは一切入れ込まない。 薄切りのパンに薄くスライスされた具材が挟まれていて四ミリほどの厚みに仕立てられている。 これほどまでに薄く簡素なサンドイッチは見た事がなかった。 名物だというスモーク・サーモンのサンドイッチから口に入れる。 厚みがない割に食感はしっかりとしている。 一口目は少し頼りないような塩加減だが、 食べ進むと尖った塩辛さもなく柔らかで丁度いい塩梅となる。 だが何と言っても此処のサンドイッチでなければと足を運ばせる訳は、 絶妙に燻煙乾燥されギュッと旨味が凝縮された燻製鮭にある。 西欧ではキング・サーモンが一般的だが、日本人の口には脂が少し重く感じられる。 なので日本では紅鮭が使用される場合が多い。 … 続きを読む

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百三十三話 癖球

野球の投手でも服飾のデザイナーでもそうだが。 キャリアを積んでベテランと呼ばれるようになってくると妙な配球で相手を惑わす。 しれ〜っと癖球を投込んで空振り三振みたいな。 この Numero Uno のパンツもそういった癖球の類だろう。 デニム・パンツもカウチン・セーターも誰でもが知っている見慣れたアイテムである。 ものごころがついた時から在ったし今でも在る。 どんなに見せ方を変えたところでそう驚きに値するものが出来る訳ではない。 そんな服種だ。 じゃぁ、なんの捻りも加えずただふたつのアイテムを合体させればどうだろうか? 世の中には困った人がいるもんである。 発想が単純であればあるほど奇天烈さも際立つ。 もうここまでとなると良いんだか悪いんだかさえもよくわからない。 デニム・パンツを大きくくり抜いてカウチン・ニットをはめ込むって。 着心地の想像もつかない。 僕も最初見せられた時思わず言ってしまった。 ⎡これって面白いんだけど実際にはいたりできるの?⎦ ⎡是非はいてみてください⎦ サイズが僕にはちっちゃかったんだけど試してみた。 意外と普通のデニム・パンツよりはきやすいかもしれない。 裏を返して見てみると。 カウチン・ニット部分には裏地が総張りしてあって縁は縫製処理されている。 ニット部分が肌にあたってチクチクするという心配もない。 それよりも膝部分にクッションがあてがわれているようで心地良い。 カウチン・ニットの大胆なボリューム感も絶妙だ。 恐々膝部分だけとかだと 膝抜けしたような感じになって貧乏臭いパンツになってしまう。 このパンツ適当にリメイクされたような風情だが、シルエットから仕様まで中々に計算されてある。 このパンツも、このパンツを創ったデザイナーの小沢宏さんも曲者ですよ。 人は色んな事を思いつく。 しかし、思いついた事をその通りにカタチにするのは難しい。 この辺りが素人と玄人の違いであり、経験の違いであり、腕と才能の違いであるのだと思う。 曲者が投げる癖球。 どんな稼業でも一筋縄ではいかない人はいるもんですよ。

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百三十二話 Le Guide Michelin 星 ✩ ✩ です。

見かけが丈夫ってのも考えもんだ。 具合が悪くってもだぁ〜れも親身になってくれない。 ⎡オヤジは兎みたいな生きものでかまって貰えないと弱ってしまう⎦と周りに説いても知らん顔。 いいよもう自分でなんとかするから。 こういう時は同い年の大将が営んでいる料理屋に行くのが良いかもしれない。 そして気楽に旬の旨い飯でも喰って大将とちょっと話でもして気分を治そう。 自宅近く箕面の滝道を登っていくと右手に一軒の料理屋がある。 “一汁二菜 うえの” 箕面国定公園内という不思議な場所に佇む。 こちらは座敷が三つの御店で女将さんが中心となって切盛りされている。 数ヵ月先まで予約が埋まっているし、御亭主は豊中の本店におられるようなので今日はそちらへ。 十年以上経つかなぁ。 見知らぬ飯屋には滅多に入らないのだが、珍しく道沿いに新しくできた料理屋の暖簾をくぐった。 偶然にもカウンターの調理場で当時板前を務められていたのが Musée du Dragon の御客様だった。 そういった縁やなんとなく相性が良かったのも手伝って、 休日の食事から法事・法要のお斎までずっとお世話になっている。 大将の上野法男さんとは年齢が同じという事もあって話も何かと合う。 この大将はもっともっと凄い料理を創る腕を持っておられるのだと思っている。 その上で普段使いの料理屋としての頃合いを見事に見切っておられる。 ⎡この一皿はちょっとなぁ⎦と思ったことは十年ほどの間一度もない。 強い印象はないが時々に旬を感じさせほどよく腹を満たしてくれる。 日常のちょっとした贅沢をそれ以上でもそれ以下でもなく演出してくれる料理屋。 相性の良い一軒を見つけるとなるとなかなかに厄介だ。 ミシュラン・ガイド に日本版ってなものができて久しいが。 調査員が日本人だとしても仏製の物差しで日本の伝統食を計るなんてくだらないにも程がある。 そう思っていた。 しかし、現金なもので知合いの店屋が星を獲ったと聞くとそれなりに嬉しかったりする。 “ 一汁二菜 うえの ”は✩✩を獲得した。 おかげで郊外の地にもかかわらず外国人が訪れるらしい。 そして海外で日本料理店をプロデュースしてくれないかという依頼もあるらしい。 こんな話もこの大将なら朝飯前だろう。 料理の腕前が一流だというだけではない、人を育てる才にも恵まれておられる。 … 続きを読む

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百三十一話 私的 Layered Style

まぁ、僕がどんな格好をしようと皆さん興味もないでしょうが。 承知でちょっとご紹介させていただきます。 気温が下がる度に一枚づつ重ねて着ていこうというセコい発想が基本になっている。 俗に言うところの Layered Style である。 服屋だから自分の風体に構うかというと意外とそうでもなかったりする。 料理人が家庭で飯を作らないのと似ているかもしれない。 でも今回はちょっと工夫してみた。 写真ではわかりづらいけど全てのアイテムの表面感が極端に異なっている。 一番上に羽織る roar のマウンテン・パーカは化合繊素材で表面はツルツル。 ボトムには 08sircus のパンツを履く。 素材は英国羊毛ツイードでガシガシしている。 また生機の状態で縫製されており液剤を使わずに職人の手作業で一本一本シワ加工を施してある。 加えてこのふたつのアイテムに関しては、 ハイテクと天然とで産まれは違っているが悪天候から身を守ってくれる機能が備わっている。 マウンテン・パーカの下には同じく roar のフード・パーカを着る。 素材は超ヘビー・ワッフルでアウターにもインナーにも使える。 ワッフルだからデコボコした面になっている。 その下はT-シャツじゃなくてシャツを。 Over The Stripes シャツはコットン・フランネル素材でフカフカ。 チェックに白いドットが飛んでいて、そのドットの正体は “ Happy Face ” 最後にインナーはコットンとレーヨンとポリエステルの混紡天竺でテロテロした風合い。 テカテカ・ガシガシ・デコボコ・フカフカ・テロテロ。 見た目も肌触りも全く異質なアイテムを組合わせてひとつにまとめる。 Outdoor・Traditional・Punk … 続きを読む

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