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月別アーカイブ: November 2025
六百七十九話 THIS IS THE “ L’évo ” 前編
一九八七年の秋、出張先の南仏 LYON で、山中に在る一軒の Auberge に案内される。 仏料理の何たるか?も解さない餓鬼だった頃の噺。 そこのところは、残念なことに爺になった今でもわからないままなのだが。 そもそもに “ 食 ” にここまでの膨大な手間と時間と金銭を費やす人達がいることに驚く。 それは、創る料理人と食べる客のどちらにもいえる。 たった一晩の夕食のためだけに大西洋を超えて LYON の山中にまでやってくる米国人。 彼らの腹と舌の欲求を完璧に満たすべく待ち受ける料理人。 美食という正気の沙汰とは思えない世界があるのだとその夜知らされる。 Auberge の主は、料理界の Leonardo da Vinci と称された Alain Chapel 氏。 食に関わる追憶という意味では、自身にとっても忘れがたく素晴らしい夜だった。 今回、こういう体験を再び与えてくれた従姉妹夫婦には感謝しかない。 困難な予約から厄介な場所への運転まで、ほんとうに面倒をかけました。 富山駅前で、ご当地拉麺 “ 富山 Black ” を軽く腹に入れて出発。 目指す場所は、南砺市利賀村。 標高一〇〇〇m級の山々に囲まれ、急峻な峡谷がひとの往来を拒む。 下に落ちれば御陀仏、上から落ちてきても御陀仏の道をいく。 こんなとこにほんとに在るの?道中何度も訊いた。 一時間三〇分ほど経って、田の島辺りで川幅が狭まった利賀川に架かる橋を渡る。 すると灰色の平屋が数棟並び建っているのが見えた。 … 続きを読む
Category : 食
六百七十八話 出逢い、つながり、BAR を始めた。
長年、店屋を営んできて想うことがある。 それは、稼業を退いた今でも頭の片隅から離れずにある。 まっとうな店屋とは何なのか? 多くは、その問いにずっと悩み苦しみ答えを出せぬまま稼業を終えるのかもしれない。 二〇一七年秋。 同じような想いを抱えたひとりの米国人翻訳家が、この運河の街に流れ着く。 Washington 州生まれ Hawaii 育ちで、京都同志社大学で学んだ Stephen Knight さん。 二〇一八年一二月、運河に架かる山王橋の袂で一軒のちいさな BAR を始める。 “ BRIDGE BAR ” 今回の旅でどうしても訪れてみたかった場所のひとつだった。 入口に据えられた此処が BAR であると示す Neon Sign 。 暗闇に蒼く淡い光が水面を照らす。 なんとも Nostalgic な雰囲気で、儚く美しい。 扉を開けると弁柄色で塗装された吹抜けの細長い通路が奥へと続く。 通路を進み奥左手の扉を開けると。 弁柄色の土間に江戸紫色の階段。 単に日本伝統への Hommage に止まらず無類の Modernism を実現している。 Vintage … 続きを読む
Category : 旅
六百七十七話 海と海をつなぐ運河の街
昭和から平成へと改まる頃、よくこの界隈を彷徨いていた。 射水市新湊地区 “ 内川 ” 海と海をつなぐ三キロほどの運河には、一四基の橋梁が架けられている。 その頃は、そこまでの橋数はなかったように想う。 両岸に漁船が係留されたかつての北前船中継地は、どこか Nostalgic な雰囲気が漂う港街だった。 そんな “ 内川 ” に惹かれて、訪れた際には漁師宿を一夜の塒として過ごす。 仕事を終えて、近くの居酒屋で旨い魚を食い、銭湯の湯に浸かり、朝は出漁の舟音で目を覚ます。 当時の雇い主には申し訳ないが、優雅な出張もあったものだと想う。 そして、あれから四〇年近く刻が経った先日、この懐かしい地を再び訪れた。 旧い漁師宅の内部を完全 Renovation し、洒落た内装に最新の設を備えた水辺の民家 HOTEL。 “ KAMOME TO UMINEKO ” 外観は変わりないが、漁師宿の煎餅布団とはまったく違う快適さに包まれる。 晩飯は、新湊港線 新町口駅近くの評判の割烹 “ かわぐち” へ。 宿からは、七分ほど歩けば着く。 富山湾特有の海底谷で獲れる白海老は、かき揚げで。 二日前から揚がり始めたという寒鰤は、鰤しゃぶで。 魚出汁に大根おろしを混ぜ入れ、切身をくぐらせる。 暮れの脂がのりきった寒鰤も旨いけど、揚がり始めの方がそこまで諄くなく好みに合う。 天然の生簀と称される富山湾。 最高に贅沢な冬の味覚を堪能させてもらえた。 … 続きを読む
Category : 旅
六百七十六話 海峡の夕暮
隣家の留守中に預かったワンコを散歩に連れ出した。 途中、民家の切れ間から海峡の空を見上げる。 明石海峡大橋の主塔上空に広がる夕焼け雲。 まるで、“ Blade Runner ” の世界みたいな。
Category : 他
六百七十五話 のどぐろ
従姉妹の息子が、鳥取から出て大阪の大学に通うようになった頃、口にした一言。 「俺、研究室の連中とかと魚食いに行くの嫌なんだよね」 「皆が旨いって喜んでるのに、俺ひとりそうでもないって言うと空気悪くなるだろ」 「だから旨いってことにするんだけど、ほんとは美味しくないんだよね」 まったくもって感じの悪い言い草なのだが、これは真実でもある。 海辺の家界隈も魚処に違いはないのだが、前海は太平洋側の瀬戸内。 魚の旨さでは、実家鳥取の日本海には敵わないと言いたかったのだろう。 もちろん、魚には、それぞれに合った餌や水温や海流などの条件がある。 なので、すべての魚種に於いてそうだとは言えない。 ただ、半島や大陸に近く海底や潮流が複雑で、最高の漁場であることは確かだ。 先日、そんな鳥取でとっておきだという一軒の割烹に連れていかれた。 漁解禁の翌日だった蟹はもちろん旨かったけれど、驚いたのは、これ! 赤鯥、関西では “ のどぐろ ”と言った方が通りが良いかもしれない。 ふっくらとした身は塩焼きに。 捌き終えた尾ヒレ、カマは骨煎餅に。 揚げた銀杏と湯葉を脇に添えて。 身の質が、緻密で、脂がのっていて、仄かな甘みが口の中で溶けていく。 骨煎餅は、これで一腕分の出汁が引けそうなくらい旨味が濃い。 無茶苦茶に旨いわぁ! 大枚叩いて喰うほどのこともないと思っていた “ のどぐろ ” がここまで旨いとは。 獲れた漁場、喰った季節、料理人の腕前そのすべてが完璧に噛み合うとこうなる。 さらに、合わせた酒がまた絶妙だった。 高知県四万十町の酒蔵 “ 無手無冠 ” の蒸留焼酎 “ DABADA Italiano ” 欧州最大産地である伊産の栗を使い、栗の天然樽で熟成させた芳醇な焼酎。 日本産の栗と違い甘さより香ばしさが勝る。 そして、これでもかというほどの栗の芳香が鼻に抜けていく。 … 続きを読む
Category : 食


