月別アーカイブ: July 2013

二百十三話 捨てる神 と 拾う神

秋冬コレクションを始める時、 いつも思う事がある。 デザイナーの多くは、アウター・ウェアーの開発に血道を上げて取組む。 ランウェイでも映えるし、いじくる箇所も多いし、売価も高いし、注目度も高い。 まぁ、要するに創り甲斐のあるアイテムなんだろうけど。 力の入れ具合といい、アイテム構成比率といい、あまりに偏った仕事振りが目立つ。 特に、日本人デザイナーには、 そうした傾向が強いように感じる。 コレクションを眺めると、裸にコートを着せて歩かせるつもりか?というようなのもある。 御客様にとっても、店屋にとっても、困った始末なのだ。 おい、聞いてんのかぁ? 中野靖、てめぇのこったよぉ! こっちは、その穴埋めに東や西に駈けずりまわって。 下げたくもない頭をぺこぺこと、いい加減にしろって言うんだよ! そんな悲しい現実を、あっちこっちで愚痴ってると。 捨てる神もあれば拾う神もあるもので、ひょんな事からひとりのデザイナーを紹介された。 JOINTRUST のデザイナー藤田将之君。 コレクション・ブランドでの経験を持ち、巴里コレクションにも助っ人として参画していたらしい。 だからという訳ではないが、確かな腕を持ったデザイナーに違いはない。 穴埋めとか言って取扱うのも失礼な話だが、正直に現状を伝え、サイズ感についても調整して戴く。 この藤田君というひと、もの静かで繊細そうに見えるが、何事にもぐだぐだ言わず即決する。 実に気持ちの良いひとである。 取り敢えず、今期については、シャツ、ニット、パンツを中心に展開しようと思う。 なかでも、このシャツ。 Vintage Ecology Bag を素材として採用している。 その素材を、複雑な縫製仕様で縫い合わせ、漂白加工を施しシャツへと仕立てる。 独特の表面感を生んでいて、魅力的なシャツだと思う。 Remake 製法にありがちなボロさや汚さは全くない。 検品の際に、とにかく運針がドレス・シャツ以上に細かく丁寧な事に驚かされた。 事前に、生地、縫製ともに強度は充分だと聞かされていたが、改めて納得する。 良いかも、いやこれは良い。 この調子だと、次に仕上ってくる Trouser も期待できそうだ。 ほんと、捨てる神あれば拾う神ありである。 ところで、捨てる神の方だが。 … 続きを読む

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二百十二話 天才 対 巨匠

七月四日、Los Angeles。 米国最大の Anime Competition である Anime Expo で一本の日本作品がプレミア上映された。 “ The Garden of Words ” 邦題 “ 言の葉の庭 ”。 新海誠監督の最新作である。 国内劇場公開は、五月三十一日だったので、ご覧になられた方も多いと思う。 鳴る神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ  鳴る神の 少し響みて 振らずとも 我は留らむ 妹し留めば 本編の重要シーンには、万葉集の一遍が引用されている。 果たして、外国人に万葉の感性がどこまで理解できたのか? そこは疑問なのだが。 現地会場は、つめかけた観客の熱気に包まれ、作品は絶賛されたらしい。 新海誠の世界観は、国境を越え世界に伝播していく。 新海作品の魅力は、愚直なまでの生真面目さにあると思っている。 作画に於いても、物語に於いても、作為的な起伏は設定しない。 細く繊細な糸をひたすら慎重に紡ぎ、ゆっくりと丁重に織り進めていく。 そうして織りあがった布は、力強く、静かな説得力をもって迫ってくる。 それが、新海ワールドなんだろうと思う。 本作の圧巻は、何と言っても雨の描写だろう。 日本人は、雨の様子を細かく表現する言葉を古来より備えている。 霖雨、地雨、驟雨、氷雨、篠突雨、肘笠雨……………………。 数多くある。 日本人が培った雨への感性を、デジタル映像へと見事に転嫁し尽くしていて。 時々に変る雨の情景を、登場人物の感情表現へと取込んでいる。 民族固有の感覚によって創出される日本アニメーションに於いて、到達点があるのだとしたら。 … 続きを読む

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二百九話 お知らせです。

いよいよ二〇一三年八月での活動休止が目前に迫った mastermind JAPAN。 次から次へとなにかとお騒がせしておりますが。 その mastermind JAPAN についての新たなお知らせです。 “ mastermind JAPAN ✕ STUSSY ” 今回は、全アイテム mastermind JAPAN 生産での展開となります。 Street Fashion 史上、最高の品質を誇るコレクションをご覧戴けると存じます。 Musée du Dragon では、二〇一三年七月十三日午前十一時より販売させて戴きます。 どうぞ、お楽しみください。 取急ぎお知らせまで。

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二百七話 居酒屋にまつわる不思議な系譜

俳人、吉田類さんの “ 酒場放浪記 ” を観ていて無性に居酒屋に行きたくなった。 どうせ行くのなら。 質の良い時を刻んでいて、ちっちゃくて、少し老いたような居酒屋の暖簾をくぐりたい。 渋谷の雑居ビルの地下に、旨い魚を食べさせる居酒屋が在ると聞いた。 屋号を “ 三魚洞 ” といって、半世紀ほど前から居場所を変えていない。 行灯に誘われて狭く薄暗い階段を地下に向かう。 半間ほどの引戸は放たれていて、頭越しに白暖簾が揺れる。 二十人も収まるかどうかという小さな佇まいである。 黒丸石を敷き埋めた床、付け台や卓の天板には、五寸を越える厚い檜の一枚板が据えられている。 石床、檜板、聚落壁、小上がり、隅々にまで行届いた手入れが長い年月施されてきた感がある。 なんのてらいもないが、凛としていて、それでも暖かい。 上品な女将とお姐さんおふたりで客をあしらい、厨房は三人の爺さんが取仕切る。 着物に染みひとつない糊のきいた割烹着を羽織って歯切れ良く立働いておられる。 新参者なので、忙しい時間帯を外して六時過ぎに訪れた。 飲むには早い時間と思ったのだが、ほぼ全ての席が埋まっている。 歳格好からすると現役を退かれている風の方が多いのだが。 ひとかどの人物だったと思わせる雰囲気を漂わせた方ばかりで、品格を備えられている。 少しばかり肩身が狭まったような心地で、お通しを肴に芋焼酎をちびりとやる。 刺身は、中トロ、赤身、しま鯵、蛍烏賊、鯛を盛って貰う。 あさりの酒蒸し。 鰤大根。 じゃがいものスープ煮。 あいなめの山椒焼き。 魚が旨いのは噂以上だが、煮物に不思議なコクがある。 あっさりと上品な味付けなのだが、なんだろうこのコクは? 僕が探っても解る訳もなく、訊いても創る訳でもなく、結局解らず仕舞いだったのだが。 ひょっとしたら、バター的な何かかもしれないと思いつつ喰い終えた。 〆に、おにぎりとざる饂飩を注文して待っていると女将から声が掛かった。 ⎡大阪の方ですか?⎦ ⎡えぇ⎦ ⎡予約してもうたとき、そうちゃうかなと思てましてん⎦ ⎡ちゃうかなぁって、女将さんすっかり別人やんか?⎦ … 続きを読む

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