月別アーカイブ: August 2025

六百六十六話 隣人 と 犬 と 南瓜

“ 海辺の家 ” の西隣には百歳超えの母親とその娘が暮らしている。 正しくは “ いた ” だが。 今年の春、鬼籍に入られ人生の幕を降ろされた。 最期の刻まで庭仕事を続けられ、海峡を一望できる素晴らしい庭を遺される。 自身の手で縫った白い作業着を着て、銀髪を広い鍔の麦藁帽子で覆い黙々と作業をされていた。 長身で背筋は伸び、顔を合わせば的確に受け応えされ、とても百歳を超えたひととは思えない。 まるで STUDIO GHIBLI 作品に登場するワンシーンそのままだった。 遺った娘は、多くの弟子を抱える現役 Florist として今も活躍している。 嫁にとっては、旧くからの隣人であり、歳上の幼馴染であり、Florist の師匠でもある。 日々忙しく飛び回っているものの少し寂しくなったのか、犬を飼うことにしたという。 千葉県の Breeder まで引取りに行って、隣家で暮らすことになった。 “ Labradoodle ” 同種内の異なる品種間による交雑によって生まれる雑種で、豪州産の珍しい犬種らしい。 路であったり、時々は遊びにきたりで、もうすっかり慣れてきた。 勝手口を開けると、当たり前のように入ってきてはしゃぐ。 とにかく、見た目も性格も行動もそのすべてが可愛いい。 風邪薬みたいな名前で “ LuLu ”と呼ばれる雄犬だ。 先日の晩方、仕事から車で帰宅した Florist に嫁が。 「お疲れ、晩ご飯に唐揚げつくってるけど一緒にどうよ?」 … 続きを読む

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六百六十五話 Banana

近くに建つ老夫婦が暮らされている古館。 北側の裏庭に立派な芭蕉の木が育っている。 昔は、よく手入れされたお屋敷だったが、いつの頃からか家も庭も少し荒れた感じに。 ずいぶん前に焼杉だった外壁も一部鋼板に囲われてしまった。 頑張って手を尽くしてみても、刻と歳には勝てないのかもしれない。 だけど、それでも僕は、窓から見えるこの御宅が好きだ。 駅前の高級タワー・マンションなんかより、よほどに美しいと想う。 晴れた夏の盛り。 夕刻、海風に吹かれた芭蕉の葉が揺れながら強い西陽を遮る。 雨の日は、雨樋みたく大きく広げた葉を伝って地面に雨水が流れ落ちる。 そして、花が咲き滋養豊かな実が房となって実る。 長い年月、家屋と共に役割を担いながら老いた家人の営みを見守っていく。 この古館と芭蕉との似合の風情は、こうして育まれたのだろう。 こんな想いを抱きながら、朝に夕に眺めていたのだが。 いつまでも指を咥えて眺めていてもしょうがない。 ってことで、芭蕉( Banana ) の木を育ててみることにした。 とりあえず、小さめの Dwarf Monkey Banana で我慢しとくかぁ。          

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六百六十四話 送り火

二〇二五年八月一六日の送り火です。 今年のお盆は賑やかだった。 母の初盆であった事に加え、引越を機に本宅の仏壇がやってきて海辺の家には仏壇が二基。 もともと居た義理の父母と越してきた両親。 両家の親が久しぶりに顔を揃えて、ひと所でお盆を過ごすことに。 なんか、これはこれで良い感じかもしれない。 嫁とは一〇代からの付合いだったこともあって、親同士異様に仲が良かった。 あの時のこと覚えてる? 昨日、嫁が、四十年ちかい前の思い出さなくてもいい噺を思い出した。 結婚前年の暮れ、当時二八歳の頃、欧州出張中に自宅に居た嫁と電話で話す。 「ねぇ、ちょっと訊きたいんだけど、アンタさぁ、わたしと結婚するつもり?」 「このままだと、流れ的にそんな感じじゃないの?で、なんで今?なんかあった?」 「いや、それがさぁ、昨晩遅くにお父さんとお母さんが家に来られたのよ」 「はぁ?なにしに?俺が留守中になにやってんの!」 「えっ?知らないの?御宅のご両親、アンタが海外出張中よく家に来られてるよ」 「知らないよ、親とかと喋らないし、冗談だろ?なにそれ、言ってよ!」 「まぁ、それは良いんだけど、昨晩の噺は流石にそうもいかないと思って」 「なんなん?そうもいかない噺って」 「付合って一〇年になるけど、あの馬鹿息子に任せてたらいつになるか分からないからって」 「一緒にさせようかって、お父さんが」 「無茶苦茶だな、それ!で、どう返事したの?」 「わたしは、その馬鹿、じゃなくって、息子さん本人からなにも聞いてませんけどって言った」 「馬鹿は余計だけど、真っ当な返答だわ、それで?」 「言ったんだけど、誰も聞いてない、親同士盛りあがってそれは良いじゃん!みたいな」 「うちの親はもちろんだけど、御宅の親もどうかしてるよなぁ、ひとり娘の一大事だろ?」 「アンタだってひとり息子じゃん、馬鹿だけど」 そんなやりとりがあった部屋に、今、こうして二基の仏壇が並んである。 いつまでも騒いでないで、送り火炊いたんだからもうお開きですよ!  

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六百六十三話 GRAND Calbee

おかげさまで、母の一周忌法要を無事済ませられました。 いやぁ〜、暑かった。 集まっていただいた親族の方々には、遠方からの方もおられてさぞ大変だったと思います。 感謝です。 ありがとうございました。 海辺の家に戻って、それぞれにいただいたお供えを仏壇に供える。 いっぱいあって、積みながら眺めていると結構楽しい。 仏様のお膳を支度している嫁に。 「 UMEDA味って、これなに?」 「あっ!それ、 GRAND Calbee だわぁ! 梅田味のポテト・チップス!」 「 GRAND Calbee ? 梅田味? なに?」 「ほら、阪急百貨店の梅田本店でよくひとが並んでるでしょ、限定でそこしか買えないやつ」 「えっ、あの行列って、ポテト・チップス目当てなの?」 「そうだよ!知らんの?」 「知らん、初めて聞いた」 「Calbee ポテト・チップスの高級版で、梅田限定味とかがあるわけよ」 「ヘぇ〜、詳しいね、で、普通のやつより旨いの?」 「それは、知らん、食べたことないから」 「そこは、知らないんだぁ」 「じゃぁ、食ってみよう」 「お供えしてからね」 「いや、他にいっぱいあるんだから、ちょっと一箱食ってみよう」 ってことで、食べてみた。 どうやら、味は、焼きしお味、スキヤデ!味、ウメダ!味の三種類あるみたいだ。 まず一袋目は、焼きしお味から。 封を開けて取り出してみると、大きさや形状の見た目からしていつものと違う。 外径がふた周りほど小さくて、厚みが厚く、表面が波板状になっている。 この形状が、そのまま歯応えや食感の違いを生じさせる。 焼きと題されているとおり炙ってあって、香ばしくて旨い。 なるほど、一般のモノよりひと手間もふた手間もかけて旨さを引出しているってわけかぁ。 次に、ウメダ!味。 … 続きを読む

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六百六十二話 仏事

ようやく海辺の家への引越も終わって、日常が戻りつつあるとか言っていた。 しかし、よ〜く考えてみたらそうはならない。 北摂の本宅を引渡した翌日が、父の祥月命日。 月が明けて八月早々に、親族集まって母の一周忌法要。 それを済ませば、母の初盆法要。 そして、いつもの盆供養。 わずかひと月の間にこれらすべてを執り行えってかぁ? 親には申し訳ないと想うけれど、もう溜息しかでない。 いったい誰が考えたん? これって苦行でしかないわ!    

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