百三十三話 癖球

野球の投手でも服飾のデザイナーでもそうだが。
キャリアを積んでベテランと呼ばれるようになってくると妙な配球で相手を惑わす。
しれ〜っと癖球を投込んで空振り三振みたいな。
この Numero Uno のパンツもそういった癖球の類だろう。
デニム・パンツもカウチン・セーターも誰でもが知っている見慣れたアイテムである。
ものごころがついた時から在ったし今でも在る。
どんなに見せ方を変えたところでそう驚きに値するものが出来る訳ではない。
そんな服種だ。
じゃぁ、なんの捻りも加えずただふたつのアイテムを合体させればどうだろうか?
世の中には困った人がいるもんである。
発想が単純であればあるほど奇天烈さも際立つ。
もうここまでとなると良いんだか悪いんだかさえもよくわからない。
デニム・パンツを大きくくり抜いてカウチン・ニットをはめ込むって。
着心地の想像もつかない。
僕も最初見せられた時思わず言ってしまった。
⎡これって面白いんだけど実際にはいたりできるの?⎦
⎡是非はいてみてください⎦
サイズが僕にはちっちゃかったんだけど試してみた。
意外と普通のデニム・パンツよりはきやすいかもしれない。
裏を返して見てみると。
カウチン・ニット部分には裏地が総張りしてあって縁は縫製処理されている。
ニット部分が肌にあたってチクチクするという心配もない。
それよりも膝部分にクッションがあてがわれているようで心地良い。
カウチン・ニットの大胆なボリューム感も絶妙だ。
恐々膝部分だけとかだと 膝抜けしたような感じになって貧乏臭いパンツになってしまう。
このパンツ適当にリメイクされたような風情だが、シルエットから仕様まで中々に計算されてある。
このパンツも、このパンツを創ったデザイナーの小沢宏さんも曲者ですよ。
人は色んな事を思いつく。
しかし、思いついた事をその通りにカタチにするのは難しい。
この辺りが素人と玄人の違いであり、経験の違いであり、腕と才能の違いであるのだと思う。
曲者が投げる癖球。
どんな稼業でも一筋縄ではいかない人はいるもんですよ。

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