月別アーカイブ: January 2023

六百十六話 ふたつの顔をもつおとこ

海辺の家に泊まっていた鳥取の従姉妹が帰るというので、三宮まで送っていくことにした。 途中、どこかで昼飯でもとなって。 兵庫県庁前の山手通りにポツンと在る薄汚い古屋で営む飯屋に向かう。 雰囲気もあって旨い Thai 料理を食わせるのだが、残念な難点を抱えた飯屋だ。 古木戸を開けると、その難点が奥からやってきた。 「いらっしゃいませ!ご予約のお客様でいらっしゃいますよね!」 「してねぇよ!予約なんて」 「えぇぇっ〜、この大人気店に予約無しで来ちゃったんですかぁ〜」 「うるせぇ!空いてんのはわかってんだぁ!あがるぞぉ」 「じゃぁ、お二階にどうぞ」 ほんと面倒臭い。 「おい、なんかギシギシいってるけど、大丈夫なのかぁ、この階段?」 「大丈夫じゃないです、お気をつけて」 「直してから案内しろよ!」 「お金ないんですぅ!」 鬱陶しい。 二階は、座敷で奥の卓を囲むことにした。 座ると、尻がプルプルと震える。 「なぁ、ちょっとお尻が震えてんだけど」 「あぁ、空調機の上なんでその振動で揺れるんです」 「マッサージ・チェアみたいだねって、修理しろ!」 残念な店屋だ。 品書を眺めていると、また難点がやってきた。 「二〇二三年、令和五年、卯年版、Baan Thai Market 新たな逸品をご紹介いたします」 「えぇっと、どれにしようかなぁ」 「あぁ、今日はこれにしよう!この生春巻です、絶品です」 「あのなぁ、オメェ去年の暮れにも、生春巻きがお勧めとかなんとか言ってなかったかぁ?」 「去年といいますとぉ、虎年ですね、子年からずっと言ってますから」 「どこが卯年版で、なにが新たな逸品なんだぁ!いい加減なことばっか言うんじゃないよ!」 「あっ、なんかあったら、このドラ鳴らしてくださいね、すぐ参りますので」 「ドラなんか鳴らさねぇよ!恥ずかしい!それに鳴らしてやって来るのどうせお前だろ」 まったくもって適当なやつ。 厨房のタイ人も、従業員も、ほんとにちゃんとした真面目な連中なのに、こいつだけがこうなのだ。 生春巻き、鶏とカシュウナッツの炒めもの、パッタイ、パイナップル焼飯などを注文する。 これが、子年から四年間変わらぬ Baan … 続きを読む

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六百十五話 新しい年 

二〇二三年一月一日、海辺の元旦。 新年あけましておめでとうございます。 夫婦ふたりだけのお正月を過ごしております。 ふたりだけなので、最小限の飾付けと好きなものだけを詰めた “ おせち ” 。 朝風呂に浸かって、食って、食って、そして寝るという自堕落な年の始まり。 いいね! 皆様にとってこの卯年が、穏やかで良い年となりますように。

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