
桜の花が散った後、新しい緑に覆われ庭全体が明るく華やぐ。
そんな季節を迎えた頃 “ 海辺の庭 ” に凶暴な使徒がやってくる。
Queen Giant Hornet (オオスズメバチの女王)だ。
絶対に負けられない戦いの幕開けなのだけど、僕は芯がやさしいので参戦しない。
眺めているだけ。
周到に罠を仕掛け、入念に毒を盛り、着実に死に追いやる。
海辺の Hornet Busters とは、我が嫁のことだ。
おんなとおんなの闘い。
怖っ!
ここで、このオオスズメバチとは何者か?についてちょっと解説しておく。
スズメバチ科のなかでもオオスズメバチは世界最大級で、働き蜂でも四センチくらいの大きさ。
女王蜂ともなれば六センチ近くにも達する。
その凶暴性と毒性も半端なく、場合によっては死を招くことも。
但し、雄は毒針を持たず戦闘や営巣などの労働にも従事せずだいたいが巣の外に出ることもない。
役割は交尾専門で、行為が終われば死ぬ。
どの種に於いても、雄は哀しくやさしいいきものなのだ。
秋、働き蜂はその短い一生を終える一方、女王蜂は次の女王蜂候補を専用の育房で育て始める。
育て終えた元の女王蜂は、そこで他の働き蜂同様寿命を終え巣は消滅となる。
代を継ぐ一体だけを残し他の蜂は全てリセットされるわけだ。
女王蜂候補は冬を越すため、余分な脂肪の燃焼となる労働はせずに育つ。
独り冬眠し春になって眼を覚ます。
そして、新たな巣を作り、働き蜂の卵を産み、巣を大きくさせていく。
女王蜂は、種の継続のみを最優先し無駄な戦闘や労働はしない。
よって、働き蜂のような攻撃性は低いと言われている。
この点に狙いをつけて登場するのが我が嫁だ。
女王蜂が、目覚めてから営巣に着手する四月中旬から五月下旬までの期間に葬り去ってしまおう。
冬眠直後の女王蜂は体力が落ち行動が鈍く、加えて営巣に気を取られ警戒心が散漫になっている。
さらに、腹が空いているので容易に餌にも食いつくだろう。
ここしか仕掛けた罠によって根源を断つ機会はないと言い切る Hornet Busters の嫁 。
周到な準備を三月から進めていく。
まずは秘伝の毒を熟成期間を見込んで手前から造り始める。
ベースとなるのは巨峰カルピスで、そこに焼酎・砂糖・酢を絶妙の加減で加えていく。
この特性カクテルを二週間熟成させる。
毒性はないのだが、一度浸かれば高い糖度による鳥黐のような粘着性によって逃げられない仕掛だ。
次に捕獲容器の作製。
足場になるような窪みのないペットボトルの上部に二センチ✕二センチの穴を空ける。
空け方は、まず “ H ” 字に切込を入れていく。
上側は庇になるように外側に曲げ、下側は内側に曲げる。
庇によって雨が入らず、下側は鼠返しの要領で一旦罠に落ちた蜂の脱出を拒む。
容器へ液を深さ二センチほどになるように注ぎ、地表から二メートルほどの高さに吊るす。
さて、戦果は得られるのか? 嫁の英知を尽くした努力は報われるのか?

桜の木に設置した初日に二体、翌日にさらに一体、合計三体が罠にかかった。
どいつも見事にでかいオオスズメバチの女王だ。
初戦の戦況にすっかり気を良くした嫁は、初号機に続き二号機・三号機を立て続きに投入。
二週間経った今日現在での使徒捕獲は八体。
嫁に。
「ねぇ、これっていつまで続くん?」
「まぁ、わたしの達成感によるよねぇ」
とは言え、五月下旬以降の設置継続は危険を伴う。
捕獲を逃れた女王蜂が圏内で営巣し、攻撃性の高い働き蜂が飛び回るようになれば手に負えない。
そういった趣旨を伝えると。
はぁ?ビビリのおとこは、これだから!黙って観てれば!


















