月別アーカイブ: December 2023

六百三十九話 本年の〆飯

年の瀬に従姉妹の息子が、やって来るという。 手首が、いまひとつ調子良くなかったので助かった。 迎春のしつらえと庭掃除などの作業を手伝ってもらう。 海辺の家の勝手は家人に次いでよく知っているので、あれこれ言わずともこなしていく。 お陰で早目に無事片付いた。 晩飯でも食うかぁ。 知合の猟師カーリマンが獲った猪肉を塩胡椒して焼肉に。 画家の女房が送ってくれた丹波産山芋は薯蕷ご飯に。 酒は、Bordeaux の銘酒 Chateau Lagrage Saint – Julien 。 素朴だが、妙に贅沢な食卓になった。 図らずも、すべて貰いもの。 この酒も、そうだ。 一〇年近く大学に居座り続け晴れて博士になった従姉妹の息子が、初給料で買ってくれた。 本年の〆飯として、言うことなし! ありがとうございました。皆様、良いお年をお迎えください。              

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六百三十八話 背徳の Stollen !

独仏国境の Alsace 地方にもBerawecka という干果物と木の実を使った似たような菓子がある。 Bera (梨)のパンとして古くから伝わるが、風味という点では、 Stollen には敵わない。 しかし、この Stollen も、その昔は、宗教上の供物で、たいして旨いものではなかったらしい。 変わったのは、バターを使うことが法王に赦された一四世紀以降。 今では、どんどん洗練されて、この季節の代表的な菓子として世界中で愛されるようになった。 そういった意味では、バターを使わない Berawecka の方が、原型に近いのかもしれない。 Stollen は、Christmas の四週間ほど前から一切れづつ食べていく。 聖夜へのカウントダウン的発想なのだろう。 だが、僕は、仏教徒なので、そんな悠長な食い方はしない。 毎年いろんな Stollen をかき集めて、好きな時に好きなだけ食べる。 ただ、買い求める場所によってその味が大きく異なる。 一番気になるのは、食感だ。 パン屋のは、パサパサして乾いた食感であることが多い。 元々の成立ちからすると良いのかもしれないが、菓子としての背徳感に乏しい。 そんな際には、これをぶっかけて甘くしっとりさせる。 伊の伝統的混成酒 “ Sambuca ” ラム酒でも良いのだけどアニス特有の香りが Stollen にはより合うように思う。 パン屋とは逆にケーキ屋のは、しっとりと甘く干果物を漬けたラム酒もよく香る。 だが、残念なことに宗教上の供物であった Stollen の禁欲的な感じが全くしない。 これでは、ただのドライフルーツ・ケーキだ。 パン屋とケーキ屋、帯に短し襷に長しで、なかなかいい塩梅だねとはならない。 … 続きを読む

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六百三十七話 魔除け?

海辺の家の裏手で生まれて、今は丹波篠山の山里に暮らすおとこがいる。 おとこは猟師で、猪や鹿や熊など獣を獲るのが稼業だ。 若いが、猟師としての腕は良いらしい。 仲間内での呼び名は、カーリマン。 優れた体幹を備え、見た目も良く、講演などもこなす口も達者だ。 数年前にちょっとした縁で知りあった。 お陰で、海辺の食卓に山の幸が加わるようになる。 この鹿肉のソーセージをはじめ、春先の脂が少ない猪肉は炭火で焼いて焼肉に。 熊肉はそぼろにして丼物でと野趣な彩りを食卓に添えてくれる。 ある時、カーリマンから狩猟法について教えてもらう。 「食肉として用いるものは、全て罠猟と決めているんです」 「でないと、血が巡ってしまって臭みが残り旨くないんで」 「ってか、食肉以外で獲ることあるの?」 「そりゃぁ、頼まれれば駆除とかで、その際は銃で撃ちますけど」 「その後の毛皮と骨は、こんな風にして残します」 鹿と思われる数枚の毛皮と白い頭蓋を見せられた。 「ヘェ〜、綺麗なもんだねぇ、欲しいかも」 「マジですか、じゃぁ、今度、骨を傷つけず一発で仕留めてきますよ」 一年後、届いたのがこれ。 眉間中央に一発の銃痕、歯の一本も欠けていない完璧な鹿の頭蓋。 凄腕の成せる仕業で、仕上げも完全オーガニックなのだそうだ。 早速、海辺の家の壁に飾ってみる。 欧州では、鹿は崇拝の対象、神の化身、英雄的な探求の象徴として館に飾る習わしがある。 逆に、風水では、骨は死の象徴として嫌われるらしい。 まぁ、どっちも信じてないから問題ないけど。 丁度、隣家に暮らす嫁の幼馴染が、スワッグをクリスマス用に創って持ってきてくれた。 彼女は、人気のフローリストとして活躍している。 で、合体させたのが、これ。 これで、良いクリスマスになります。感謝!        

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