月別アーカイブ: May 2016

四百四十八話 永遠に訪れない明日

海辺の家で、暇にしている。 そこで、若いのを呼び、藤棚の下で茶会でも催してみようかと思う。 だが、茶道具はことごとく始末したので、茶道に倣った会は無理だ。 そもそも、面白くもない。 じゃぁ、英国流に Tea Party なんかを気取ってみるのはどうだろう? 思いついたのが。 ” A Mad Tea-Party ” 狂ったお茶会? ご存知の方も多いだろうが、敢えてちょっと語らせていただく。 一八六五年、英国の変態数学者が不思議な妄想文学を発表した。 ” Lewis Carrol ” 作家としてそう名のった数学者は、この物語の出版によって爆発的な成功を収めることになる。 ” Alice’s Adventures in Wanderland ” 邦題 「不思議の国のアリス」で、「鏡の国のアリス」へと続く一連の作品である。 「狂ったお茶会」は、作品内の一章に時間が止まったまま終わらないお茶会として描かれている。 また物語には、奇妙な料理が数多く登場する。 この奇妙な料理を真剣に研究し一冊の料理解説本としてし世に出したおとこがいるらしい。 表題は ” Alice’s Cook Book ” 著者は … 続きを読む

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四百四十七話 簡単に喰えない飯屋

簡単に喰えない飯屋というのがある。 まぁ、理由はいろいろだが、客にとっては面倒な飯屋だろう。 面倒なので、そういう飯屋には日頃から訪れないように心掛けているのだが。 どうしてもというところも中にはある。 此処、松濤の仏料理屋 Cuisine et vin Aruru もその類の飯屋だった。 とにかく人気で予約が難しい。 何度予約を入れても取れない。 以前、Aruru のオーナー・シェフ山本夫妻と桜木町の居酒屋で偶然隣合わせたことがある。 ちょうど Aruru に予約をしたが駄目だった晩で、大人気ないと思いつつそれを告げてしまった。 とても感じの良いご夫婦は、恐縮されながら。 「ほんとに申訳ありません、懲りずにまたよろしくお願いいたします」 その晩は定休日だったので仕方ないが、それからも数度挑んでみたもののやはりありつけなかった。 ちょっと前になるが。 そんな Aruru に電話すると、ひとつだけある外の卓なら大丈夫だと言う。 「マジでぇ!良い!良い!外でも、内でも、なんなら厨房でも、どこだって構わないから」 「飯屋に雰囲気なんか求めないおっさんだし、外で飯喰うの慣れてるから」 Aruru といえば岩手の南部鉄器料理だと聞いていた。 なので、Cocotte から始める。 Cocotte とは、その名のとおり仏版鉄鍋料理であり、野獣野鳥などの煮込んだものが多いように思う。 電子レンジすら使えない素人が言うのもなんだけど、そう難しい料理ではないだろう。 だけど、此処 Aruru の鉄鍋料理は、一般的に想像するそれとは明らかに違っている。 菜の花 soufflé を注文したのだが。 とにかく度を超えてフワッフワッなのだ。 … 続きを読む

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四百四十六話 もっとも残酷な画家?

世界一残酷な絵描きと称される画家がいた。 Edward Gorey  という米国の画家で。 その展覧会の切符を、老松町に在る絵本屋の女店主よりもらった。 店主の勧めもあって、観に行ったのだが。 この絵画展、ここ数年で観たどの展覧会よりも興味深く素晴らしく驚かされた。 正直、期待が薄かっただけに、その衝撃がより大きかったのかもしれない。 「エドワード・ゴーリーの優雅な秘密」 こう題された絵画展は、伊丹市立美術館で開催されている。 現実にはありえないことだが、あったら怖いこと。 Surréalisme とはそういった事だと思うが、Gorey の作品はまさにそうである。 実際の殺人事件に基づいて描かれたものもあるが、ほとんどが非現実世界での出来事だ。 不吉で、不気味な題材を、愚直ともいえる緻密さで描写している。 時をかけて丁寧に作品ひとつひとつを観ながら進む。 不吉で、不気味だから不快なのかというと、そうではない。 むしろ、静謐で気品すら感じられ、ゆっくりと Gorey の世界に浸されていく。 不思議な感覚で、こういった作品にありがちな強引さはまるで存在しない。 「優雅な秘密」とは、良い表現で、まさにそうだ。 それにしても、Edward Gorey が、こんなにも魅力的な線を引く画家だったとは。 線の集積が面であり、その面として絵画が成立しているのだと考えると。 どのような名画も、一本の線から始まる。 だから、画家にとっての線は、画業のすべてを左右する大事なのだと思う。 Gorey の描くちいさな画面から放たれるただならぬ気品の所以。 それは、やはりその一本一本の線に宿っているのではないか? いやぁ〜、ほんとうに素晴しい! Edward Gorey が、どんな人物だったのか?を、恥ずかしながら初めて知った。 相当に風変わりな画家だったのだそうだ。 亡くなったのが、二〇〇〇年だからそんな昔のひとというわけではない。 眼は青く澄み、豊かな長い髭を蓄え、タートル・ネックのセーターに毛皮のロングコートを羽織る。 指にはドーナツのような真鍮製の指輪をいくつも嵌め、足元は白いスニーカー。 … 続きを読む

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四百四十五話 なにをどう着るのか?

今まで三五年間、服に埋もれて暮らしてきた。 それが、Musée du Dragon を閉じたことによって変わる。 もちろん、自宅の箪笥のなかに堅気では考えられない量の服が未だ眠っている。 だったら、それらを着りゃぁ良いのだけれど。 そうもいかないのが性というもので、こればかりはしょうがない。 Over The Stripes の大嶺君、Authentic Shoe & Co. の竹ヶ原君、The Crooked Tailor の中村君。 そういった人達は、僕のこの病にも似た性をよく分かっていて。 それじゃぁ困るだろうと、新作の服や靴を届けてくれた。 有難く、また贅沢なはなしだと感謝している。 それら届けられた服や靴を核に、なにをどう着るのか?ちょっと考えてみた。 結果、前から気になっていた Denim Pant を試してみることにする。 [ TENDER ] 英国の Denim Brand で、Musée du Dragon では扱ったことはない。 昔、岡山の児島産地に Savile Row … 続きを読む

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