月別アーカイブ: January 2016

四百二十九話 多謝

精一杯やるにはやったけど。 Musée du Dragon の幕を引くって言ったら、蜘蛛の子を散らすように皆んないなくなるかも。 そんな景色を眺める羽目も覚悟しておかなくてはならない。 それが。 年明けから大勢の方々に囲まれて。 見たこともない心遣いを数えきれないほど頂戴して。 身に余る言葉を贈られて。 なんか、こう、気の利いたお礼を述べなければならない。 そう想って頭を巡らせても、馬鹿が急に治るわけでもなく。 月並みのこんな言葉しか浮かばない。 ほんとうに、ありがとうございました。 こころより感謝申し上げます。 店内が混み合いまして、 わざわざご遠方よりお越しいただきましたのに満足なご挨拶も出来ませず申し訳ありませんでした。 最期まで、行き届かぬ始末をご容赦ください。 お詫びと重ねましての御礼を申し上げます。 ありがとうございました。 あっ、それとこの馬鹿 blog は続けるつもりにしております。 僕の先々を餌に暇でも潰していただければ幸いと存じます。 では、お粗末様でございました。 また、どこかで。 さようなら。 二〇一六年一月三一日 ミュゼ・ドゥ・ドラゴ店主 䕃山雅史    

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四百二十八話 節目節目に

うゎぁ〜、これが、Flower Artist 東信の花なのかぁ。 写真でしか見たことなかったけど。 巴里の Colette を飾り、Cartier 現代美術財団では Art Performance を披露するなど。 今、世界がもっとも注目する華道家である。 その作品が眼の前にあって、お陰で店は妖しく華やいでいる。 この花は、東京南青山に在るお店で注文されたのだそうだ。 “ Jardins des Fleurs ” という名の花屋には、一輪の花も置かれていないと聞く。 完全注文制で、花の Haute Couture として営まれている。 花を抱いて家族でお越しくださったのは、Musée du Dragon の初期頃から通っていただいた方だ。 御主人も奥様もおふたりとも大切な顧客様で。 二〇年前といえば。 美男美女のおふたりが、大学生の頃にお付合いされていた時分だったんじゃないかなぁ。 仲良く連れ立って、よく来店されていた。 貴重な花はもちろん有難いし嬉しい。 でも、こうして二〇年経った今、幸せに立派に暮らされている姿を拝見するのはもっと嬉しい。 大学卒業 就職 御結婚 出産 結婚記念日 など。 … 続きを読む

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四百二十七話 Merci à vous. 

龍に見立てた素晴らしい花が送られてきて。 添えられたカードには。 Merci  pour longtemps! Nous  étions contents avec vous. とある。 まったくもって恐縮なのだけれど。 ここはひとつ仏語で返すことにする。 Merci pour une fleur. Merci pour longtemps. Merci pour une grande sensibilité. Je vous remercie surtout, de m’avoir accepté si aimablement chez vous. 多分、無茶苦茶な仏語だと思うけど。 とにもかくにも、Merci  です。 龍みたいな花って?これ、ブロッコリーじゃねぇの?さすが!  

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四百二十六話 禁断の靴

過ぎた感情を注ぐのは良くない。 出来る限り平静であるべきだろう。 そう心掛けてきたし、実際そのようにしてきたつもりである。 この稼業に就いてモノと向き合っていく術についての話なのだが。 “ 好き ” の一念だけで続けていけるほど気楽な稼業ではない。 モノとヒトとの間合いをどうとるのか? これが意外と難しい。 時に、こうして惑うことも。 僕が引退したその時に履こうと大切に仕舞ってきた靴がある。 八年前、Authentic Shoe & Co. の竹ヶ原敏之介君が仕立ててくれた。 木型から裁断、吊り込み、縫い、最終仕上げの磨きまで。 一〇を超える製靴工程の全てを本人の手で熟した手縫靴だと聞いた。 “ WINCHESTER ” 執拗に施された無数の Brogue と呼ばれる穴飾りが靴を覆っている。 元々 Brogue は、アイルランド地方やスコットランド地方の労働者達が履く靴に空けられていた。 頑強だが、粗末でもあった労働靴に用いられた手法で、飾るための穴ではない。 湿地での労働から産まれた工夫で、通気と水捌けが狙いだ。 館に暮らし、絨毯と芝生の上しか歩かない貴族の靴にはこんな穴は見られなかったはずである。 だとすると、この靴は労働者の作業靴なのか? この穴飾りが施されていなかったとしたら、この靴はまったく別の意味合いをもつ。 優美な曲線を描く木型を基に仕立てられた靴は、Oxford という名で知られている。 一九世紀の英国で、Albert 公爵が好んで履かれていた靴なのだと聞く。 内羽根式のそれは、正当な血統と格式を備えた貴族の足元を飾るにふさわしい靴といえる。 何故、竹ヶ原君が  Winchester … 続きを読む

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四百二十五話 怖れ

店屋にとっての客とは? 僕は、養い親だと思っている。 今の Musée du Dragon が在る同じ場所に父親が婦人服店を構えたのは一九七六年の事である。 営んできた四〇年の間、多くのお客様がお越しになられ、服の代金として銭を置いていかれた。 その銭が、家族の暮らしにとって糧となり今があるのだ。 三度の飯を食い。 学校に通い。 夜露を凌ぐ住処を建て。 ちょっとした贅沢まで。 そんなことが、この歳になるまで許されてきたのである。 店主だけではない、従業員だって皆そうだろう。 これは、有難い話ではあるけれども一方で怖い話でもある。 御客様には、われわれを養っているという意識はない。 そんな義理も義務もどこにもないのだから。 服がつまらなければそれまでのことである。 そうなると、暮らし向きは悪くなり、下手をすれば路頭に迷う羽目に陥る。 代金に見合った値打が提供出来るという自信と覚悟があるのか? 自問すると、その度不安になる。 ずっとそうだったし、先日もそうだった。 Musée du Dragon には、二〇歳代の顧客様は数えるほどしかおられない。 これだけの値段なのだから、それはそれで仕方ないことだとは思っているのだが。 山形出身で静岡に勤められているその顧客様は、昨年大学を出られて就職されたばかりの方だった。 数ヵ月前に二〇万円近いコートを注文戴いて、年明けに大阪まで引取りにお越しになられる。 他に用事はなく、そのためだけに。 帰省されている山形からか?勤務地の静岡からか?いづれにしても遠方には違いない。 発送を申し出たが、Musée du Dragon が閉じると聞いてどうしても伺うとのことだった。 失礼ながら。 コートの代金はもちろん。 その上に交通費だって勤められて間もないのであれば馬鹿にならないのだろうと思う。 今晩のお泊まりはと訊くと。 近くのサウナで過ごされるらしい。 ちょうど店内が混み合っている時で、碌にご挨拶も出来なくて。 それでも、仕立上りに納得されておられるか?否か?が気になる。 … 続きを読む

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四百二十四話 恩人の大事

二〇一六年一月三一日 Musée du Dragon は幕を閉じる。 皆様にお礼のご挨拶を申上げて、扉を閉め、看板を降ろす。 そうなるんだろうと思っていたし、実際にそうなるだろう。 しかし、ここに至ってそれだけでは終われない事態となった。 お越しになられて、その日にはどうしても伺えないと告げられる。 その理由は。 病が発覚し、緊急の手術に臨まなければならなくなった。 なので、今日挨拶に来た。 訊けば、入院される二日前だったらしい。 これ以上のことは、こんな馬鹿 blog で明かすことはできない。 それでも、こうやって綴っているのは多分病室でお読みになられているだろうから。 服屋の亭主なんぞ無力なもんである。 な〜んにもできやしない。 糞の役にも立てない。 情けないけれど、こんなものを書くより仕方がない。 振り返れば、この方にはほんとうにお世話になった。 調子の良い時も悪い時もずっと支えられてきたように想う。 Musée du Dragon にとっては、間違いのない恩人だった。 もちろん僕にとっても、心強い理解者だった。 そして、これから先も理解者であっていただきたいと、そう願っている。 挨拶にお越しいただいた時、僕はお世話になった御礼を口にしなかった。 大人気ない失礼な態度だったかもしれない。 だけど、今はそういったやりとりをする時ではないと思う。 根治されて、お元気になられて、すべてはそれからだろう。 その日まで、お預かりした服を抱いてお待ちするつもりにしている。 顧客さまに。 ご注文いただいた服をお渡しして。 勘定をさせていただいて。 代金を頂戴して。 御礼を述べる。 数え切れないほど繰返してきた一連の常道を終えるのは、もうしばらく先になるだろう。 … 続きを読む

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四百二十三話 義父が愛した港街

朝、新聞を読んでいると。 神戸港の貨物取扱量が、震災以前と比べてほぼ同量までに回復したという記事が載っていた。 加えて来航する外国客船の年間入港数も過去最高を記録したらしい。 二一年前。 一九九五年一月一七日の阪神淡路大震災から一ヵ月ほど経った頃だった。 義父が、実家である海辺の家を片付けに帰ってきた娘に言う。 「港が見たい」 不自由な身体となっていた義父を車に乗せ国道二号線を東へと向かう。 国道の両脇には瓦礫が積み上がっている。 ずっと馴染んできた神戸の姿とはまるで違っていて。 聞いただけに過ぎない神戸大空襲直後の様子の方がまだ眼前の景色に近い。 長田を過ぎ、兵庫を過ぎ、元町に差掛かると神戸の港が見えた。 「もういい、戻ってくれ」 気落ちした父親にかける言葉がなっかたらしい。 後になってそうだったと嫁に聞いた。 義父は、神戸港湾施設の新鋭化を最後の仕事として深く関わってきた人だった。 埠頭に最大級の検量設備を建設しようと奔走していて。 その最中、会議中に脳梗塞で倒れる。 それでも、港が見下ろせる病院最上階の病室に陣取って指揮を執っていた。 端迷惑な話だが、病院でも怒鳴り声は絶えなかったという。 そうやって、絶対安静という治療方針とはほど遠い入院生活を送っていたのだが。 遂にそのツケを払うことになる。 二度目の梗塞が義父を襲う。 これで、普通のひとは万事休すなのだが。 左半身が不自由になっても、杖をつきながらあれやこれやと怒鳴っていた。 そして計画に道筋が立つと、今度はあっけないほど簡単に身を引いてしまう。 一旦身を引いてしまった後には。 俺はこれをやったとか、あれをやったとか他人に言って聞かせることは終生なかったように思う。 無茶苦茶やって、大酒を喰らい、なにを格好つけてんだ!と僕は思っていたけれど。 ガキの頃からなにかと良くしてくれたし。 不思議と馬も合ったし。 他人が言うほどに怖いと思ったことも一度もないし。 なんとなくだけど、好きだった。 そんな義父の夢は、ほんの一時ではあったが叶った。 しかし、残念ながら義父の心血も天災には敵わなかった。 神戸港湾施設は、壊滅的な打撃を被り二〇年もの低迷期を味わうことになる。 その港が復活したというのだから、これは嬉しい。 神戸っ子とも呼ばれる神戸人にも、その他の地域同様に気質というものが備わっているように思う。 飄々としていて、必死に努力している姿を晒そうとはしない。 適当で、能天気なようにも映る。 … 続きを読む

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四百二十二話 即興のCLIMAX HAT ?

  昨年の秋頃だったと思う。 帽子デザイナーの三浦さん御夫妻から、なにか一緒に創りませんか?とお誘いを頂戴した。 奥様のよしえさんは、帽子職人として長い経験を積んでこられた方で。 自身のブランド Pole Pole として、独特の作品を世に出されている。 知合いのデザイナー達が Pole Pole の帽子を愛用していたし。 好んで被られている顧客の方もおられたりして、そのお名前と仕事振りは以前より存じあげていた。 だけど、お逢いしたことはなく御主人の慎太郎さんともこの時が初めてだった。 当然、Musée du Dragon との取引もない。 それに、年明けには幕を引くつもりだったので、それまでに製作するとなると肝心の時間がない。 どちらにしても、この仕事で始めてこの仕事で終えるという一作限りのお付合いになってしまう。 本来なら丁重にお断りすべき状況なのだが。 お互い世代が同じだったせいもあって、とにかくやってみましょうか?ということになる。 生地を新たに織る時間的余裕はないので、ヴィンテージのリネン生地を縮絨して表地に。 裏地には、ちょっと理由ありの生地を用いる。 実は、僕の母親はかつてオートクチュール・ドレスを収集していた。 De’ d’or 賞を受賞した Jules Francois Crahay の作品など一九八◯年代のコレクションが中心である。 その母も九◯歳近くになり、背中の開いたドレスを着て人前に立つことももうない。 着物と違って、代を継いで譲るものでもない。 今となっては、誰にとっても無用の逸品となった残念な代物である。 ならば、解体して帽子の裏地にしてみようか? こんな風に。 巴里モード界が最も華やかだった時代の証をひっそりと帽子の裏地に仕込んで頭に掲げる。 意外といけるかも。 帽子製作に関しては、その全てを三浦よしえさんにお任せした。 … 続きを読む

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四百二十一話 最期の初売り?

明けましておめでとうございます。 旧年中は本当にお世話になりました。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 と、言いつつ Musée du Dragon の幕を閉じるまで残すところ後一ヵ月となりました。 最期の初売りというのも妙な言い回しですが、一月三日の日曜日から始めさせていただきます。 初売りでは、 Musée du Dragon らしい逸品を披露するつもりでおります。 Authentic Shoe & Co. の竹ヶ原敏之介君とこの日のために創った CRIMAX Brogue Belt です。 お陰様で大勢の方からご予約を賜りまして、店頭にお出し出来る本数が限られてしまいましたが。 まだ、一◯本くらいはあるんじゃないかなぁ。 Belt の最終仕上げに年末の三◯日まで掛かったので、午前の初荷到着を待って販売いたします。 年明け早々で恐縮ですが、お待ちしております。 それでは、あと暫くお付合いのほど宜しくお願い申し上げます。  

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