四百四十五話 なにをどう着るのか?

今まで三五年間、服に埋もれて暮らしてきた。
それが、Musée du Dragon を閉じたことによって変わる。
もちろん、自宅の箪笥のなかに堅気では考えられない量の服が未だ眠っている。
だったら、それらを着りゃぁ良いのだけれど。
そうもいかないのが性というもので、こればかりはしょうがない。
Over The Stripes の大嶺君、Authentic Shoe & Co. の竹ヶ原君、The Crooked Tailor の中村君。
そういった人達は、僕のこの病にも似た性をよく分かっていて。
それじゃぁ困るだろうと、新作の服や靴を届けてくれた。
有難く、また贅沢なはなしだと感謝している。
それら届けられた服や靴を核に、なにをどう着るのか?ちょっと考えてみた。
結果、前から気になっていた Denim Pant を試してみることにする。
[ TENDER ]
英国の Denim Brand で、Musée du Dragon では扱ったことはない。
昔、岡山の児島産地に Savile Row 出身の仕立職人がデニムを学びにやって来たと聞いたことがある。
その職人が William Kroll だった。
帰国後、Denim Meister と呼ばれ Denim Brand [ TENDER ]を設立する。
今では、名門 Central Saint Martins 大学でデニムについての教鞭をとっているらしい。
TENDER Denim なるものを初めて手にとってみた。
常軌を逸した凝りようで、Denim Meister というより馬鹿じゃないのかと思う。
ファッションとは縁も所縁もない造りは、多分一九〇〇年代くらいの作業着を思考したものだろう。
打込みのきつい生地を、ヒストリカルな仕様で仕立ている。
兎にも角にも無骨な面構えだ。
そして、Dip Dye Woad と記された札が付けられてある。
WOAD?
和名では、確か「細葉大青」と云うのだと思う。
日本の藍染色では、染料はその名通り藍から抽出する。
が、中世の欧州では青染色に於いてこの「細葉大青」が用いられると教えられた。
WOAD の現物を見たことはないが、黄色い花をつける披針形の葉をした植物なのだそうだ。
Dip Dye Woad なんて本当だろうか?
そんな石器時代に始まり二〇世紀初頭には姿を消したという染色を行っているとは。
WOAD (細葉大青)を染料とするには発酵させなくてはならない。
その発酵過程で生ずる臭いは、とんでもない悪臭だと聞く。
いったい英国の何処でそんな近所迷惑な染色技法を実践しているのだろう?
疑問は尽きないし、事の真意も定かではないが。
TENDER Denim の色合には、確かに草木染色独特の風情が漂う。
また、リベット等金具ひとつひとつにも半端ないこだわりが見受けられて。
こうして語りだすと切りがないほどである。
TENDER にも、William Kroll というおとこにも、なんの義理もないのでこの辺りでやめるけど。
いちいち面倒臭いモノ創りをする馬鹿は、どこの国にもいるものだと感心させられた。
そんなことより。
Over The Stripes の Punk Shirt に、The Crooked Tailor の Motorcycle  Coat を羽織って。
TENDER の Denim Pant の足元には、Authentic Shoe & Co. の Work Shoes を履いて。
馬鹿なおっさんは、今日もゆく。

そして、馬鹿は死んでも治らない。

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