十七話 foot the coacher

Authentic shoe & Co.で打合せがある。
ここは、靴職人、竹ヶ原君の会社であり、アトリエでもある。
今は、foot the coacher だが、付き合い始めた当初は、
竹ヶ原敏之介の名がブランド名だった。
英国王室御用達の靴メーカーで職人として働いた後、帰国した頃だったと思う。
男前だが、繊細そうで、金の無さそうな若者だった。
それが今では、渋谷の一等地に戸だてのアトリエを構え、超美人の奥さんまで。
⎡やるもんである。⎦と云うより正直羨ましい。
しかし、今日は厳しい話になる。
ここでは、詳しくは語れないが。
確かに、有名になったし、一流のお店で取り扱われ、生産状況も安定している。
そして、品質も格段に良くなっている。
価格も充分努力されている。
そして何より、御客様も満足しておられる。
申し分のない話であるが、ただ何かが足りなくなりつつある。
ずいぶん前に、ある有名エディターが、彼の靴を評して、こう書いた。
⎡粗にして野だが、卑ではない。⎦
確か旧国鉄総裁の答弁の一説だったと思うが、そのとうりだと思う。
この言葉の中に、失ってはいけない何かのヒントがあるのでは。
商売としては何の問題もない。
これは、靴職人、竹ヶ原敏之介の一ファンとしての願いである。
Musée du Dragonとしても、もう一度、彼の毒のある世界観を伝える環境を整えたい。
出来れば年内に。

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