七十六話 The Exorcist (祓魔師)

今日は早く帰らないと。
日が暮れるとエクソシストとして、任された儀式を執り行わなければ。
一九七三年に“ The Exorcist ”、 一九七六年には“ The Omen ”。
このてのホラー映画が流行った時代がある。
二作品とも劇場で観たのだが、臭わない程度にお漏らしするほど怖かった。
今でも怖いし、最近尿道の機能が少し低下気味なので一切観ないことにしている。
友人の妹に、一九六六年六月六日産まれの子がいた。
彼女の頭に悪魔の紋章⎡666⎦があるんじゃないかと疑って髪の毛を掻き回した。
姉は激怒するわ、妹は泣くわ、大変な始末になる。
⎡女の敵⎦とまで言われた。
僕は、人類のためをと思っただけだったんだけど。
宥めるのにあれやこれや奢らされて小遣いすっからかん。
というように、この頃から⎡悪魔祓い⎦には、自腹で比較的熱心に取り組んでいる。
話を戻そう。
今日は、二月三日⎡節分⎦、この国においての悪魔祓いが催される。
さて、祓う的となるのは⎡邪気⎦或は⎡鬼⎦と呼ばれる類である。
その姿が、片口に描かれている。
基督世界の悪魔と比べると、⎡鬼⎦はなんともひょうきんな姿でとりあえず怖くない。
祓って外に追い出すより、内に招いて家事でも手伝わしたい風情でもある。
多分、頭が一八〇度回転して顔を向けるといった技もこなせないだろう。
おのずと、祓う儀式も明るく楽しげな作法となる。
儀式の核となるのは⎡豆撒き⎦。
何故⎡豆⎦かというと⎡魔滅⎦だから。
完全に駄洒落である。
作法は、鬼に豆をぶつけて邪気を祓う。
鬼が見えないという見通しの悪い人は、適当にその辺にばら撒けばよろしい。
撒く際に、⎡鬼は外、福は内⎦と唱えるとなおよろしい。
さらに、撒かれた豆を歳の数だけ拾い集めて食べる。
以上、おしまい。
昨年のちょうど同じ日。
家に帰ると、⎡はい、これ⎦と馬鹿面した⎡鬼⎦の面を渡された。
⎡いや、俺、エクソシストだから⎦
⎡じゃぁ、わたしに豆ぶつける気?⎦
⎡そんなことしたら、出て行かなきゃなんないじゃん⎦
⎡晩ご飯誰が作んのぉ?お腹減るよ、いいの?⎦
⎡さっさとやってよ。支度これからなんだから⎦
ただの行事なんだけど。
結局、昨年は、エクソシストのつもりが⎡鬼⎦だった。

⎡鬼は外⎦って言われても、寒空に行くあてもねぇしなぁ。

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