四百二十二話 即興のCLIMAX HAT ?

 

昨年の秋頃だったと思う。
帽子デザイナーの三浦さん御夫妻から、なにか一緒に創りませんか?とお誘いを頂戴した。
奥様のよしえさんは、帽子職人として長い経験を積んでこられた方で。
自身のブランド Pole Pole として、独特の作品を世に出されている。
知合いのデザイナー達が Pole Pole の帽子を愛用していたし。
好んで被られている顧客の方もおられたりして、そのお名前と仕事振りは以前より存じあげていた。
だけど、お逢いしたことはなく御主人の慎太郎さんともこの時が初めてだった。
当然、Musée du Dragon との取引もない。
それに、年明けには幕を引くつもりだったので、それまでに製作するとなると肝心の時間がない。
どちらにしても、この仕事で始めてこの仕事で終えるという一作限りのお付合いになってしまう。
本来なら丁重にお断りすべき状況なのだが。
お互い世代が同じだったせいもあって、とにかくやってみましょうか?ということになる。
生地を新たに織る時間的余裕はないので、ヴィンテージのリネン生地を縮絨して表地に。
裏地には、ちょっと理由ありの生地を用いる。
実は、僕の母親はかつてオートクチュール・ドレスを収集していた。
De’ d’or 賞を受賞した Jules Francois Crahay の作品など一九八◯年代のコレクションが中心である。
その母も九◯歳近くになり、背中の開いたドレスを着て人前に立つことももうない。
着物と違って、代を継いで譲るものでもない。
今となっては、誰にとっても無用の逸品となった残念な代物である。
ならば、解体して帽子の裏地にしてみようか?

こんな風に。
巴里モード界が最も華やかだった時代の証をひっそりと帽子の裏地に仕込んで頭に掲げる。
意外といけるかも。
帽子製作に関しては、その全てを三浦よしえさんにお任せした。
デザインの相談もしない。
試作品を前にして修正検討することもない。
生地の裁断から仕立てまで全工程を手作業で 一気に進めていく。
Improvisation (即興演奏)的一発勝負!
捩ったように立体裁断されたクラウンは、高めで自在に山のかたちをつくれる。
鍔には芯地は貼らず、縁に仕込んだワイヤーで好みの形状に可変させる。
僕が言うのもなんだけど、さすがだと思う。
雑に扱えて、ラフ過ぎず少し古典的風情をもった気取りのない帽子を。
言ってみるもんだ。

感謝です。

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