嫁が、玄関の収納扉が使いにくいからと建具屋を呼んだ。
片開きの扉を両開きに変更するらしい。
作って一年も経たない片開きの扉は、嫁の一言で廃棄。
新たな観音開きの扉を製作することに。
ついでに、玄関がもう少し明るくなるよう扉に何んか描いてくれと言う。
もちろん建具屋は絵なんて描かないから、僕が描くしかない。
玄関に描くにふさわしい題材は?
そこで、寺や神社の入口に必ずいる仁王像や狛犬を思い出した。
決まって、一方が口を開いていて、もう一方が口を結んでいるあれだ。
サンスクリット文字配列は、まったく妨げのない状態で口を開いた 「阿」から始まる。
そして、 口を完全に閉じた「吽」で終わる。
古来より、日本人は、人間の間柄における状態を表す言葉として用いてきた。
ふたりが、呼吸まで合わせるように共に行動しているさまを「阿吽の呼吸」と言ったりする。
夫婦円満・家内安全・魔除など、なんかよくわかんないけど良いような気がする。
しかし、まさか仁王や狛犬を玄関に描くわけにもいかない。
そういや、 Alice’s Adventures in Wonderland の挿絵にそんなのがあったような。
一方が口を開いていて、もう一方が口を結んでいる百合の妖精だか魔女だかの絵だった。
英国の風刺画家 John Tenniel が、一五〇年ほど昔に描いたちいさな挿絵だ。
これを、襖絵のように描けば良い感じに仕立てられるかも。
下絵から仕上げまで五日を要して、描き終えたのがこれ。
「阿形の百合」
「吽形の百合」
嫁が。
ジジイにしては、良い腕してんじゃん。
俺を、誰だと思ってんだぁ!