四百六十八話 くたびれた服

おとこが着る服は、ちょっとくたびれているくらいがちょうど良い。
この歳になると、今までに増してそう想う。
が、良い具合にくたびれていく服に出逢うことは滅多になくて。
最新の流行りを追いかける方が、よほど手間いらずで楽だ。
原糸から衣服へと仕立上げるには、数多くの工程を経なければならない。
そのひとつひとつの工程を、ゆっくりと丁重にこなしていく。
急いだり僅かでも手や気を抜くと、碌でもない服となってしまう。
碌でもない服は、くたびれるまでに塵と化す。
どうせ塵になるんだから、服なんて一円でも安い方が身の為だ。
そう考えるひとは少なくないんじゃないかと思う。
まんざら間違いでもないけれど、服で飯を喰ってきた者としてはちょっと寂しい気もする。
そこで、ここに一着のくたびれたコートがある。
英国 Burberry 社の Balmacaan Coat で、一九七〇年に仕立てられたものだ。
一般的に Balmacaan Coat は、包み込むように大きいものだが。
一九七〇年代製 Burberry 社のコートは、他の年代に比べて身幅も袖も細目に仕上がっている。
なので、中衣が T-Shirts でも借りもののようなダボついた風情にはならない。
気に入っているのは、それだけじゃなくて。
この皺の感じがとても良い。
細く長い上質の綿糸を高密度に低速で打ち込んだ生地でないと、この面にはならない。
縫いは若干雑だが、塹壕服としての成立ちを考えればそれも味わいのようにも思えてくる。
そして。
中身がくたびれてきた今、この半世紀ほど昔のコートがようやく似合うようになってきた気がする。
もっとも、女のひとには、なんの与太話か意味不明だろうけれど放っておいてもらいたい。
重箱の隅を楊枝でほじくるような感性がおとこにはあることをいくら説いても仕方ないから。
でも、これをご覧になると少し気が変わるかも。

The Tale of Thomas Burberry – Burberry Festive Film 2016

今月、ネット上で限定公開された Burberry 社の短編フィルムです。
Thomas Burberry 役 Domhnall Gleeson を始め、Sienna Miller、Lily James 他の豪華過ぎるキャスト。
「 AMY 」を撮った Asif Kapadia が、監督に起用されているらしい。
エンターテイメント としても、ファッションとしても、素晴らしい作品です。

三陽商会の方々にとっては無念なお気持ちもあるでしょうけれど、やっぱりこれが Burberry だ。
  

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