三百六十四話 反逆の服とは?

人種・年齢・性別・階級などに拘わらず愛される服がある。
それ自体は、決して洒落たものではないのだけれど。
御国の気候や風土に合わせた機能を無骨ながら備えている。
時を経て、もっと優れた機能をもった服が考案されても、廃れることなく愛され続ける。
特に英国人はこういった服を生み育てる才に恵まれているように思う。
北海に面する港町 South Shields で、一二◯年前に生まれたこの服もそのひとつだ。
北海の悪天候下で働く漁師達に向けて、油を塗った布製雨合羽が創られた。
たしか Beacon とかいう名だったと記憶している。
丈夫で高い防水性能は評判になり、英国から英領植民地へ、そして世界へと知られる存在となった。
J.Barbour & Sons の社名から、日本では Barbour Jacket とか呼ばれている。
そして、英国王室御用達の勅許も授与されている名品でもある。

映画 “ The Queen ” でも Dame Helen Mirren 演じる女王陛下が、こうしてお召しになられている。
この服飾史上の逸品を、どうにか反体制的にというか PUNK 的に解釈できないだろうか。
そう考えたのかどうかは知らないけれど、多分そう考えたであろうおとこがいる。
Authentic Shoe & Co. の竹ヶ原敏之介君である。
まず色はやっぱり黒だろう。
身頃も袖も細身に仕立てたい。
狩猟用としての仕様は可能な限り削ってストイックな風情に。
いっそ襟も取っ払って、革の縁取りを施して。
金属部品は銀色で、それと解る特徴を残しながら伊 Raccagni 社製のものを使用する。
細部にわたって検証し、削るものは削り、加えるものは加え、変えるべきは変える。
だが変えてはならないものもある。
Barbour が Barbour たりうる要点は、その布地にある。
そこを変えれば、ただの出来の悪い真似事にすぎない。
この服には、英 Millerain 社の正統な Wax Cotton 生地が使われている。
繊細にして豪胆な仕事の先に、洗練と野趣が共存する独特の世界観が表現される。
靴でも服でも、竹ヶ原敏之介の世界観は揺るがない。
それでも、靴屋の創った服なんてと言われる方もおられるかもしれない。
まぁ、僕もそのひとりだ。
しかし、そうとは言い切れないなにかがこの服にはあると思う。

悔しいけど、実際個人的に買ってしまったしね。

 


 

 

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