二百十二話 天才 対 巨匠

七月四日、Los Angeles。
米国最大の Anime Competition である Anime Expo で一本の日本作品がプレミア上映された。
“ The Garden of Words ” 邦題 “ 言の葉の庭 ”。
新海誠監督の最新作である。
国内劇場公開は、五月三十一日だったので、ご覧になられた方も多いと思う。

鳴る神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ 
鳴る神の 少し響みて 振らずとも 我は留らむ 妹し留めば

本編の重要シーンには、万葉集の一遍が引用されている。
果たして、外国人に万葉の感性がどこまで理解できたのか?
そこは疑問なのだが。
現地会場は、つめかけた観客の熱気に包まれ、作品は絶賛されたらしい。
新海誠の世界観は、国境を越え世界に伝播していく。
新海作品の魅力は、愚直なまでの生真面目さにあると思っている。
作画に於いても、物語に於いても、作為的な起伏は設定しない。
細く繊細な糸をひたすら慎重に紡ぎ、ゆっくりと丁重に織り進めていく。
そうして織りあがった布は、力強く、静かな説得力をもって迫ってくる。
それが、新海ワールドなんだろうと思う。
本作の圧巻は、何と言っても雨の描写だろう。
日本人は、雨の様子を細かく表現する言葉を古来より備えている。
霖雨、地雨、驟雨、氷雨、篠突雨、肘笠雨……………………。
数多くある。
日本人が培った雨への感性を、デジタル映像へと見事に転嫁し尽くしていて。
時々に変る雨の情景を、登場人物の感情表現へと取込んでいる。
民族固有の感覚によって創出される日本アニメーションに於いて、到達点があるのだとしたら。
それは、本作に潜んでいるのではないか?
そう思ってしまうほどに凄い。
もちろん、雨だけではない。
広げた傘に映り込む木々の影、靴採寸での指使い、揺れる髪の毛等。
執拗なまでの描写は、本編の隅々にまで行届いている。
四十五分の短編であるがゆえのもの足りなさは、微塵もない。
ほんとうに、満ち足りた作品でした。
⎡ ほしのこえ ⎦⎡雲のむこう 約束の場所⎦⎡秒速5センチメートル⎦⎡星を追う子ども⎦⎡言の葉の庭⎦
さて、次回作は?と訊きたいところだが。
これだけの質を作品に期待する以上、時間や量を問うのは酷だろう。
新海誠監督、ほんとうにお疲れさまでした。
そして、七月二十日には、巨匠宮崎駿監督作品 ” 風立ちぬ ” が公開される。
⎡ 雲のむこう 約束の場所 ⎦ VS. ⎡ ハウルの動く城 ⎦ 以来九年。
ジブリ渾身の一作で挑む。

天才と巨匠の対決、結末が見えた選挙より興味深い。

 

 

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