四百八十話 春に着る服 

服屋を営んでいると。
好みの服を、好きな様に、好きな時に着るというわけにはなかなかいかない。
でも今は、商いの縛りも、しがらみも解けて自由だ。
そんな身の上で、この春に着る服をちょっと考えてみた。
欲しいアイテムは、ふたつ。
ひとつは、軽く羽織れる一重仕立ての Coat 。
もうひとつは、究極に着心地の良い T-Shirts 。
まぁ、こんなところだろう。
Pants は、このところ Jeans で過ごしているのでそれで良い。
経糸が濃茶色、緯糸が黒色、平織りの麻布一枚で仕立てられた Coat 。
肩線は落とされ、ゆったりとした皺くちゃの Work-Coat 的な風情だが。
その袖は、完璧な仕立ての流儀で付けられている。
精緻に仕立てられた粗野な服。
今、気分としてはそうなんだけれど、適う服を探すとなると難しい。
で、結局この春も、 The Crooked Tailor の中村冴希君が届けてくれた服に袖を通すことになる。
麻生地も中村君が考えたのだそうだ。
白色もあるらしいが、肥えた冬大根みたくなりそうなので茶色にした。
春には少し暗い気もするけれど、深みがあって、これはこれで良い色だと気に入っている。
海辺の家には、梅花が香る。
花香を嗅ぎながら、こうして春の衣替えを待つのも一興だと想う。

中村冴希君、良い服を届けてくれて有難うね。

 

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