六百話 大地の呼吸?

海辺の庭。
昨年の暮れに、“ 庭の GYPSY ” 橋口陽平君と知り合って、指導を受けながら改庭を進めてきた。
彼も日本全国飛び回っているので、いつも一緒にとはいかないが、要所要所で手を貸してくれる。
ようやく下段の庭の法面も整い、後は植栽を残すところまできた。
次は、壁に San Francisco の錆びた解体トタン材が貼ってある上段の東側に取りかかる。
この場所には、大きな枝垂れ梅の老木があって、この季節には毎年花を咲かせてくれていた。
それが、数年前の台風で煽られ倒れて、手当の甲斐なく枯れてしまう。
根はそのままにした大きな切株があったので、抜根を GYPSY に依頼する。
弟子とふたりがかりで、二時間近くを要する作業 となる。
僕は、コロナ・ワクチンを前日に追加接種 したため、腕が上がらず役に立たないので眺めてるだけ。
抜根が終わり、根の先を調べ、さらに深くの土を掘り出し匂いを嗅ぐ GYPSY 。
「なにやってんの?」
「この木倒れた原因、台風だけじゃ無いですね」
「根の先が腐って弱っていたところを強風に煽られ倒されたんですね」
「切った後の根腐れじゃないの?」
「違いますね、この黒い土の匂いは有機ガスで、土壌の深い部分で発生しています」
「マジかぁ? なんでそんなことに?」
「コンクリート擁壁でしょうね、敷地端の土壌が呼吸不全になりガスが発生したのだと思います」
「で、どうすんの?」
まず、天穴を開けてガスを逃し呼吸を戻したうえで、脈を作って竹炭や切枝や落葉を仕込むらしい。
「それって、結構面倒だな 」
「䕃山さん、庭に対する考えを変えてください!」
「地上の植物の状態をよく見て、地下の土壌に起きている事象を想像しないと」
「落葉や剪定枝を生かしながら、自然に土壌を隅々まで良好な状態へと整えていきましょう」
「あっ、そうそう、僕、そういった話を、明日講演するんで聴きにきてくださいよ」
「そんなマニアックな話聴くひといるの?」
「だから、䕃山さんみたいなひとですよ」

えっ? 俺? 俺は、自分の庭を、このスケッチみたいにしたいだけなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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