五百九十八話 物 欲

 

誕生日。
爺が、さらに爺になるという儀式で、めでたい要素はどこにもない。
ただ、この歳まで無事に過ごせたのだから、有難いといえば有難い。
嫁から訊かれる。
「なんか欲しいものある?」
「べつに何もない」
「ほんとに、何もないの?」
「あぁ、そういえばシャワーヘッドとか、マイクロバブル的なやつ」
「オバハンかぁ!だいたいそんなものどうすんの?」
「えっ? 身体とかが綺麗になるんじゃないの?」
「ならんわぁ!」
「じゃぁ、何もいらない」
歳のせいなのか?モノに溢れる環境で暮らしてきたせいなのか? 理由はよくわからないけれど。
さっぱり物欲が湧かない。
どこかに出かけて消費するという行為そのものが面倒臭くなってきた。
マズイなぁ、これは。
それでも、食欲だけはあるから、まぁ、良いかぁ。

蝋燭吹き消して、与えてもらったケーキ食って、寝よ。

 

 

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