五百七十話 高瀬船

京都。
木屋町を高瀬川に沿って歩くと二条通りと交わる。
ちょうど交わった辺りに、全く懐に優しくない古美術屋が在って、来るとつい寄ってしまう。
桜の頃にゆくと、人にまみれるだけなのだが、今年は様子が違った。
人影もまばらで、なんとなく心寂しい。
この高瀬川を舞台に、漱石先生は “ 性 ” を、鴎外先生は “ 死 ” を描いた。
文豪が愛した高瀬川の風情を束の間にせよ取り戻したかのように想う。

皮肉にもだけど。

 

 

 

 

 

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