五百四十六話 お幸せに

この時節、めでたい話のひとつでもないとやってられない。
先月、若い友人が、結婚することになった。
恵まれた家系に産まれて育ったおとこだが、その分背負っている荷も重くて大きい。
身勝手に降ろすことが適わない荷を、連れ立って背負っていこうという人と出逢えたのだから。
それは、心強いし、とてもめでたい。
海辺の家近くに在る古い洋館で、ご親族そろって祝われたらしい。
ほんとうに、良かったと想う。
そこで、なんかちょとした品でも贈ろうかとなったのだが。
なかなかに難しい。
このおとこ、嗜好が歪んでいる上に、おおよそのモノは手にしている。
好みでない結婚祝いの品ほど始末に困るものはないことは、遠い昔の記憶としてある。
無難なところで花かぁ。
花なら、そう邪魔にもならず、ふたりで楽しむことも叶う。
しかし、ただ綺麗な花というのも芸がない。
やはり、ここは、歪んだ嗜好の持ち主のことは、同じく歪んだ嗜好の持ち主に訊くのが良い。
嫁が、贔屓にしている怪しげな花屋。

“ el Dau Decoration ”

一般的な花屋の概念からすると全く異質な空間といえる。
女性 Florist の下江恵子氏も、変わっている。
「これ、可愛いでしょ?」とか言うけれど、この方の可愛いという基準がいまいちわからない。
西洋骨董の花器が、並べられていて。
「良いねぇ、これって幾ら?」って訊くと、「それ、わたしのだから」
「じゃぁ、これは?」って別のを指差すと、「あぁ、それもわたしのだから」
「あのなぁ、わたしのモノは、家に置いときなさいよ!店に持ってくるんじゃない!」
嗜めると、一向に臆せず嫁に。
「お宅のご主人、ちょっと変わってるね」
どう考えても、変わってるのはそっちだと思うが、作品の感覚は、独特で惹かれるものがある。
この日も。
「この天井からぶら下がってる電球みたいなの何?」
「硝子花器だよ、それは売れるよ」
「だから、売れないものは店に置くんじゃないって!」
「この花器使って、でっかい電球みたいなの作れる?」
「それ面白いかも!できるよ!」
「言っとくけど、結婚祝いだからね、そこんとこよろしくね」
「任しといて 、出来たら画像送るから」
二、三日経って画像がきた。
球には、“ PROTEA ”
あまりにも立派で荘厳な花姿であるために神の名を持つ。
自分の意思でいかようにも姿を変えられるギリシャ神話の神 Protea に由来するらしい。
口金には、“ 蝙蝠蘭 ”
線には、“ KIWI の蔓 
これらを、麻縄 で縛って照明具のように天井から吊るすという趣向。
結婚祝いの花としてどうかは別にして、これはこれでなかなかに面白い。
まぁ、これからの長い道のりを照らすとかなんとか適当に解釈してください。

末永くお幸せに。

 

 

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