五百三十六話 古材柱

海辺の家を改築し始めてから、間も無く四ヵ月が経とうとしている。
で、その進捗はというと未だ半分にもならない。
工務店の担当者に。
「ねぇ、家建てるのって、もうちょと楽しいもんだと思ってたけど、全然楽しくねぇんだけど」
「こんなもんなの?」
「いやいや、段々とできてくると気分もあがってきますから」
って、いつのはなしだよ?
古館の改築は、図面通りにはいかない。
半年かけて建築家の先生がひいた設計図面も、解体してみると現実的ではない部分もある。
その都度、再考し仕様を変更していく。
どうしても手探りの作業を強いられる。
棟梁が。
「ご主人、二階の柱二本が、図面通りには抜けませんねぇ」
「柱を新材に入れ替えて残さざるをえないんですけど、真新しいのが露出しても良いですか?」
「まずいなぁ、ここにピッカピッカの白木の柱はないよなぁ」
「どうしますか?塗装でなんとか誤魔化します?」
「誤魔化すっても、太柱二本となると面が広すぎて無理じゃない?」
「ちょっと知ってる古材屋に訊いてみるわ」
そんなこんなで、古材屋の倉庫に。
“ BULLET JAPAN ” 古材輸入建材の扱いでは知られた会社で、名たる店舗の内装を手掛けてきた。

あるある、ところ狭しと解体古材が並んでいる。
百年以上の歳月を風雨に晒されて過ごしてきた木材は、やはり迫力がちがう。
が、しかし、住居内装に使用するには、古材としての主張が強すぎて使いづらい。
店舗材と住居材では、目指すところがどうしても異なる。
案内してくれた男前の若い職人に。
「もうちょっと節度のある古材ってないの?」
「はぁ?」
「いや、築七〇年くらいの家にあった柱とか」
「ないですけど、経年変化を想定してつくれますよ、僕でよければですけど」
「あのさぁ、俺、おんなだったらキミに惚れてるわ」
「ありがとうございます」
「でも、結構です!注文だけで」
「あっ、そう、じゃぁ注文するわ」
傷跡の程度や色合いを相談して、工程上一週間ほど要するという時間を待つ。
「一ヵ月程度で色は落ち着いてきますけど、これでいかがでしょう?」
「ありがとう!良い腕してるわ!」
自然な飴色で、傷や擦れ具合もよく馴染んだ檜の太柱が二本仕上がっていた。
「ところで、おにいちゃん、この稼業楽しい?」
「ええ、おかげさまで、好きでやってるんで」
「そうなんだぁ」
「ちょっと相談なんだけど、俺、ここで雇ってくんないかなぁ?」
側にいた嫁が。
「だいぶとポンコツだけど、かなり器用だよ」
「給料とかいらないから、面倒みてあげてよ」
「いやぁ〜、楽しげな方だとは思うんですけど、うちの社長に雰囲気が似てるんで」
「あっ、そういえば、社長ちょうどいるんで」
そして、別部屋から出てきた社長と面を合わせた。
歳は、相手の方が下だろう。
海坊主みたいなおっさんで、道で出逢ったら絶対目を合わせたくない輩だ。

どのへんの雰囲気が似てるっていうんだよ!いい加減なことを言うんじゃない!

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