五百三十四話 六本木歌舞伎 “ 羅生門 “ 

新元号を迎えると、市川團十郎白猿が誕生する。
期間限定、平成十一代 市川海老蔵の舞台姿もそろそろ見納めかという今日この頃。
原作 芥川龍之介 演出 三池崇 六本木歌舞伎 第三弾 “ 羅生門 ”
大阪公演を観た。
第三弾の共演者は、“ V6 ” の三宅健らしい。
そう耳にしても顔すら思い浮かばんけど。
第二段 ” 座頭市 ” では、女優寺島しのぶさん。
オンナの次は、アイドル?
まぁ、客としては、木戸銭分楽しませていただければつべこべいう筋合いではない。
そもそも、文句を口にするほど歌舞伎にも芝居にも通じてはいないから。
そんな俄客でも ” 座頭市 ” の寺島しのぶさんは艶っぽく映ったし、舞台も充分に面白かった。
しかし、気になるのは演目だ。
芥川龍之介の “ 羅生門 ” って、登場人物はふたりだけだったような。
たしか、老婆と下人。
となると、市川海老蔵と三宅健のふたり芝居?
早変りもなし?
序幕 第一場 羅生門
いきなり、芥川作品には描かれていない場面が舞台に。
市川海老蔵演じる渡辺綱と市川右團次演じる茨木童子の大立ち回りから始まる。
幕前の武者と鬼の斬り合いの後、幕があがり荒れ果てた羅生門が闇の中に浮かぶ。
絢爛な装束と派手な動きから、静寂の薄汚れた闇へと一瞬で暗転する。
舞台が化けて、一気に異世界へと引き込まれていく。
この感覚は、なかなか他では味わえるものではないと思う。
今回の “ 羅生門 ” は、序幕が三場、二幕が二場の構成で成っている。
なので、芥川龍之介の “ 羅生門 ” とは、だいぶ様相が違う。
歌舞伎の “ 茨木 ”と“ 戻橋 ” 能の “ 羅生門 ”そして芥川の“ 羅生門 ”を基に仕立てられた脚本らしい。
古典の Remix Scenario ともいえるこの物語は、巧みで斬新でいて “ 羅生門 ” の本性を語っている。
市川海老蔵の役者としての身上は、“ 廃れることのない古典こそが新しい ” なのだそうだ。
まさに、舞台からは、当代成田屋のそうした想いが伝わってくる。
二幕目 第二場 羅生門の彼岸
この場面は、全く独創の世界なんだろうけれど。
それだけに一番の見所なのかもしれない。
唐突に登場する人物。
役名に成田屋の紋 “ 三升 ” を冠した “ 三升屋兵庫之助三久 ” を市川海老蔵が演じる。
成田屋に代々伝わる「荒事」は、歌舞伎一八番を彷彿とさせ、“ 附け ” が響く舞台は最高潮へ。
鬼や魔を退ける呪術的な舞は、ありがたく力強い。
これが、これこそが、当代市川海老蔵。
よっ!成田屋!
いやぁ〜、浮世の憂さも今宵限りだわ。
そうしていると、舞台天井から一本の紐が、するすると降りてくる。
芥川龍之介 の “ 蜘蛛の糸 ” って趣向かぁ?

粋だねぇ。

 

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