一九五〇年頃の木造家屋は、そのほとんどが布基礎を土台として建てられた。
布基礎は、建物の壁に沿ってコンクリートを打って造る。
なので、床を捲れば、下には土の地面が覗く。
海辺の家も、そういう具合になっている。
基礎の補強もあって、床材を剥がして床下を確認した。
現場監督、家曳屋、建築家、施主、その場に居た皆が顔を合わせて。
「見た?」
「見たよね?」
幅一〇センチ長さが二メートルほどだろうか、地面に亀裂が走っている。
深さは、相当に深く実際にはどれくらいなのか?見当がつかない。
「これが傾きの原因かぁ、怖ぁ!」
「しかし、よくまぁ、ご両親もご無事で」
地面がこれだけの始末なのに、建屋自体には、傾いているものの構造上大きな問題はなさそうだ。
木と土で建てられた古屋も馬鹿にしたものではない。
結果として家人を守ったんだから。
それにしも、この辺りの硬い地盤を裂くとは、地震の怖さを改めて知る。
そして、今も国道沿いに遺る地震の遺構が思い浮んだ。
そりゃぁ、高速道路の橋脚を捻じ切るほどだから、もう何をやっても無駄のような気もするけれど。
そんな諦めの境地でいたのに。
「こうやって、見ちゃったらしょうがないよねぇ」
「布基礎のコンクリートを打替えて補強するつもりだったけど、見ちゃったらそうもいかない」
「えっ?そうもいかないって?じゃぁ、どうすんの?」
「硬い地盤まで杭を打って、ベタ基礎に変更して、衝撃を強固な面で受ける方向でやるかぁ」
「いやいや、それってもはや補強じゃないだろ?新たな基礎をってはなしじゃないの?」
「そんなの誰が銭払うの?」
「それは、もうご主人が」
「阿保かぁ!」
「いや、うちはもともと基礎屋出身だから、この手の仕事には良い腕してっから」
「そういうはなししてんじゃないだろう!銭をどうするんだって言ってんだよ!」
「だからぁ、それは、ご主人が」
建築家の先生に訊く。
「先生の見解はどうなの?」
「まぁね、お金は持って死ねないから」
「うるせぇよ!」
ほんと、見なきゃ良かった。