五百二十九話 QUEEN

友人の弟から。
「BOHEMIAN RHAPSODY もう観ましたか?」
「あぁ 、なんか話題になってるみたいね」
「観ないとかなり後悔しますよ」
「ヘェ〜、そんなに 」
「僕なんか、毎週観て次で四回目ですから」
「マジでぇ?」
「毎回、泣けますよ」
「えっ?泣くの?」
生 Freddie ならわかるけど、所詮映画でしょ?
早速、嫁と劇場へ。
その嫁は、Queen を神と崇め、日本公演には二回、滞在しているホテルへも。
窓から顔を出してくれた四人を仰ぎ見たことが、この歳になっても自慢だ。
「わたしは、Roger Taylor のファン」
と他人に吹聴しているが、実は筋金入りの Freddie Mercury 信奉者だということを僕は知っている。

“ BOHEMIAN RHAPSODY ” を観た。

で、泣きました。

高校生の頃、ラジオの深夜放送から流れてきたこの曲を聴いた。
なに?これ?
Ballard? Opera? Rock? 転調なんていう生易しいもんじゃない。
そもそも、これっていつ終わるの?
そして、プロモーション・ビデオの映像を。
当時 P.V. なんて名称すらなかったと思う。
そこで初めて神の姿を拝する。
こっ、こっ、この方が、このおっさんが、Freddie Mercury?
なにもかもが、島国に暮らす高校生には理解不能の衝撃だった。
エンターティメントにおいて、この衝撃を超える存在にいまだ出逢ってはいない。
僕らにとって。
Queen というバンドはなんだったんだろう?
Freddie Mercury という天才はなにをもたらしてくれたんだろう?
Bohemian Rhapsody が流れると何故切なくなるんだろう?
We are the Champions を聴くと根拠のない自信が湧いてくるのはどうしてだろう?
一九九一年、Freddie Mercury は、AIDS 発症による肺炎で逝く。
天才が愛してくれた日本人の皆が、夢のような好景気は過ぎ去ったのだと気付かされた頃だった。
馬鹿馬鹿しい世代の馬鹿馬鹿しい郷愁。
だけど、Queen を聴いていたあの時代。
そう悪い時代でもなかったような気がする。

まぁ、おっさんが劇場で泣く言い訳にはならんけれど。

 

 

 

 

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