五百十九話 おめでとう!

井野将之君、おめでとうございます。
六月六日巴里。
LOUIS VUITTON PRIZE の受賞者が、世界に向けて発表された。
最高賞を手にしたのは、“ doublet ” デザイナー井野将之だった。
日本人初の快挙!
賞金総額 三〇万ユーロ!
ほんとうに、良かったよね!
デビュー当時。
場末の喫茶店で、あれをしたいこれをしたいと語っていた男が頂きに立った。
だから、この稼業はおもしろい。
自身の幕を引くと決めたことを伝えに、井野君のコレクション会場を訪れた。
「俺、これでこの稼業アガるけど、これから先も良い服創ってよね」
「はい、頑張ります!世話になりました!」
べつになんの世話をしたわけでもないし、なにかの役に立てた覚えもない。
「にしても、蔭山さんもスーツとか着られるんですね」
「阿保か!一応の礼をわきまえて、糞暑い最中着たくもない一張羅羽織ってんだろうが!」
「マジっすか?ありがとうございました」
他愛もないやりとりも、こうなってみるとちょっとした自慢かも。

冥土への土産話がひとつできたわ。

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