五百十五話 おひとつどうどすぅ?

いや、祇園や上七軒の京花街での話ではありません。
北山の山裾、京都盆地北の縁辺に建つ京都国際会館。
四月最終の週末、京都最大級の日本酒イベント” SAKE Spring 2018 ” がここで開催されると聞く。
酒好きでも、日本酒党でもないけれど、ちょっと面白そうなので覗いてみることにする。
とは言え日本酒についてはさっぱりだ。
大関、白雪、白鹿という名酒蔵の息子連中を友人にもってはいるものの、知らないものは知らない。
なので、頼りになりそうなおとこに連れ立ってもらった。
歳は 親子ほどに離れてはいるが、毎月自宅で Sake Spring を開催しているというほどの日本酒通だ。
にしても、なんちゅう盛況ぶり!
会場は立錐の余地もないほどで、こんな洛北の果てにこれほどのひとが集るとは。
酒飲みの執着というのは恐ろしい。
全国から三五の蔵元が自慢の銘柄を、そして、二〇ほどの料理屋が絶品限定おつまみを提供する。
初心者としては、その三割ほどを知っていて、後の七割は聞いたような聞かないような蔵元が並ぶ。
どこをどう呑み歩けば 良いのかは、連れの指南に従った方が無難だろう。
まずは、丸石醸造(愛知)の二兎。
銘柄の由来は「二兎追うものしか二兎を得ず」って、なんのこっちゃ?
味と香、甘と辛、酸と旨など、二律背反を欲深く追求したらこうなるらしい。
次は、八戸酒造(青森)の陸奥八仙。
酒米、酵母、仕込水と地元産にこだわっている老舗蔵。
新鮮な果実酒みたいな味いで、昭和な舌には、これが日本酒?的な今時感がある。
続いて、酔鯨酒造(高知)の酔鯨。
あっ!これ知ってる!
いつも何喋ってるか半ば不明な吉田類が、” 酒場放浪記 ” で故郷の酒とか言って飲んでるやつ。
魚介類にあう究極の食中酒とか謳っているけど、それは違うな。
甘味の勝った土佐醤油にこの酒のキレが似合うんじゃないかな。
たっぷり鰹節をのせた冷奴に土佐醤油を掛けての酔鯨が良いんじゃないの?
よくわかんないけど。
そして、今代司酒造(新潟)の今代司。
グラフィック・デザイナー小玉文氏の最高傑作「錦鯉」を纏う越後の粋。
まったくの素人目線だけど、この蔵元が世界における日本酒を牽引していくのかもしれない。
越後の「今」と「古」をむすぶのだと若い蔵主は言う。
駆けだしの頃、よく越後産地を巡った。
接待では、嫌というほどに飲まされ。
ようやく夜中に宿に帰ると、今度は下戸の織元が羊羹抱かえて囲炉裏端で待ち構えている。
「やでもかんでも、食ってくんなせや」
呑みに呑んだ挙句の羊羹ほどきついものはない。
日本酒と羊羹を好んで口にしなくなったのは、この罰ゲームのせいのような気もする。
だけど、越後人が大切にするこの徹底したもてなしの気質は見事という他ない。
越後のそうした酒宴で鍛えられて育った今代司なんだから、きっと海外でも通じることだろう。
今代司の後も、数軒の蔵元を巡った。
そういや、平和酒造(和歌山)の紀土とかも。
若い蔵人達が挑んだ革命的な銘酒で、今、凄く注目されているらしい。
とにかく、こんないろんな日本酒を呑んで 過ごしたのは初めてだ。
もともとが門外漢なうえに、酔っ払っているので、お門違いなことを書いてるとは思うけど。
こうした圧倒的な集客力と蔵人の活気を目の当たりにすると、日本酒の今とこれからがわかる。
日本酒は、世界を睨んだ日本の重要なコンテンツのひとつで、その勢いはさらに増すに違いない。
せっかくの機会なので。
今夜は、連れを伴って、日本酒目当てに洛中に繰り出してみようかぁ。
って、なんか呂律のまわらない吉田類みたいなことになってきた。

では、もうあと数軒お邪魔しようかと思います。

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