五百三話 巣立ち

なんどもするほどの話ではないけれど。
ちょっと、ご報告まで。
雛発見より二週間ほどが経った。
自宅から海辺の家に戻ってきて、藤棚を見上げると。
藤の葉は、一枚残らず散っていて、隠されていた山鳩の巣はむき出しの姿をさらしている。
二羽の雛は、どこにもいない。
結末として考えられることは、ふたつ。
ひとつは、この寒空にもめげずに元気に巣立って飛び去った。
もうひとつは、外敵の餌食になり短い生涯を閉じて旅立った。
いづれにしても、山鳩はもういない。
あるのは、巣の下に敷かれた古煉瓦の上に盛りあがった臭い糞だけ。
挨拶のかけらもなしかよ!
まぁ、所詮鳥だからな。
残された最後の糞を片付けて、ソファーで横になっていると。
ドン!ドン!バサァ!バサァ!
ソファー正面の硝子戸を叩く音に驚いて顔をあげた、
鳥が、左右の羽根で硝子戸を叩き、こちらが気付くと松の木に留まりこちらを見下ろしている。
マジかぁ! 嘘だろ!
頭とケツは、まだ産毛でモサモサしているものの、すでに立派な山鳩であり雉鳩だ。
間違いなく奴だ!そっかぁ、無事だったかぁ!巣立ちを知らせにきたのかぁ!
なんの想いからかよくわかんないが、ちょっとした感動に心が湧く。
それから二時間ほど、こちらを見ながら同じ場所で毛づくろいに励んだ後。
飛んだ。
まだ、下降しながら滑空するといった感じではあるが、それなりに鳥の飛行と言えなくもない。
山鳩の寿命は、長ければ二〇年ほどだときく。
これから先、親と同じくこいつとも長い付合いになるのかもしれない。

にしても、山鳩っていうのも意外と義理堅い。

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