四百三十七話 豚に真珠

一段落したら。
いろんなところへ行って、いろんな人に逢って、いろんな話をしてみたい。
国の内でも外でもどこでも。
店屋の亭主でいる限り店に縛られてしまう、自分勝手に都合で動くというわけにはいかない。
仕方のない事だと諦めていたけれど、ようやくその枷が解けたのだからそうすることにする。
だが、その前に。
出歩くのだとしたら。
いつでも、どこでも、仕事が出来るようにしなければならないと気づく。
二〇年間というもの出張以外は、ケツに根が生えた如く店か事務所で過ごしてきた。
なので、PC は卓上だけだし、携帯は未だにガラケーという始末である。
それでも別段不自由なくやってこれた。
これを、移動に耐える情報環境に改めよう。
誰に教えて貰うか?
店を閉じても、なんでも客を頼みにする悪い癖は抜けないでいる。
「すいませんけど相談に乗ってもらえますか?」
「いや、そうやって難しそうに訊いてるけど、そんなこと世間のひと皆んながやってることだから」
「 えっ?そうなの?」
「今から購入リストを mail するからそれ持ってヨドバシ行って買ってきて」
「で、買い揃えたら連絡してそしたら行くから」
「説明してくんないの?」
「しない!面倒だから!」
で、ヨドバシ行って。
オタク丸出しのおにぃちゃんが、あれこれ言ってくるのを制して。
「俺になんだかんだ勧めても無駄なんだよ!」
「な〜んも分かってねぇし」
「だから、黙ってこのリストに載ってるものを揃えてここに持ってきて」
「 言い値で払うから」
「お客様、お分りじゃないんでしたら、お預りして初期化を当方で済ませましょうか?」
「うるせぇ!日本語で喋れよ!」
どうしたって、この手の奴とは話が噛み合わないらしい。
まぁ、相手も間違いなく腹のなかで同じように思っているだろうけど。
そうして今、目の前に、Mac Book Air とかいうやつを始め色々とあって。
それらを、じっと眺めている。
大枚叩いて買ってみたものの、果たしてこれでなにが変わるのだろう?

豚に真珠とは、このことだ。

 

カテゴリー:   パーマリンク