四百十六話 幕引き

場末に在る服屋の亭主が引退するっていうだけである。
まったく世間的にはど〜でも良い瑣末なはなしだと思うんだけど。
大手業界紙の記者が取材したいと言う。
「もう何年も前から雑誌の取材もお断りしているし」
「そもそもやめようかっていう奴の言分なんて誰が耳を貸すんだよ」
一旦そうやってお断りしたのだが。
お世話になっている方とも関係のある記者だったこともあって結局お受けすることになった。
「で、どうして長年続けてこられたミュゼ・ドゥ・ドラゴを閉じられるんでしょうか?」
「自信が無くなったから」
「はぁ?自信ですか?」
「今日より出来のいい明日にする自信がないんだよ」
「饅頭屋だって、拉麺屋だって、服屋だって、店屋なんてもんはみんな一緒だよ」
「今日喰った飯が、昨日喰った飯より不味い飯屋なんて誰も暖簾を潜らないでしょ」
「何年営んできたとかに価値なんかなくて、明日の出来が問われるのが店屋だと思うけどね」
「それでも続けられる方もいらっしゃるんじゃないですか?」
「いるのか?いないのか?それは知らないよ、だけど結末は同じだろうな」
「そんな店屋どのみち潰れるから」
他にもいろいろと勝手なことを喋ったけど、要点はそんなところだったような気がする。
で、どんな記事が紙面に載ったのかを僕は知らない。
読まないから。
だけど、本音で正直に語らせてもらえたのは良かったと思う。
最後に、これからの才能ある若い方達には?

知らねぇよ!そんなの!やりたければやりゃぁ良いじゃん!

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