四百九話 中性脂肪?

どこかにぶつけた憶えもないのに、左足の膝が腫れて。
腫れたのに気付いた晩に高熱がでて。
それでも打ち身かと思って湿布薬を貼って我慢していたのだが。
二日経っても三日経っても腫れが引かず階段の昇り降りもままならない。
とにかく痛い。
こりゃぁ、駄目だなぁ。
店の近くの整形外科で診てもらうことにした。
プロ野球の選手も通うという評判の医者らしい。
赤黒く腫れている患部を眺めながら。
「あんた打撲とか言ってるけど心当たりでもあんの?」
「いや、それがないんだけど、腫れてるから打ち身かなと思って」
その答えも聞かず看護婦さんに。
「抗生剤の点滴を用意して!それから検査用採血も!」
「これからすぐ一時間ほど点滴するから、診療と検査を併せると二時間ほど戻れないからね」
「えっ?なに?俺なんか病気なの?点滴って悪い病気のひとがするやつじゃないの?」
「あんた馬鹿なの?病気だからここに居るんだし、悪いから治すために点滴するんだろ」
「いや、そうじゃなくて、なんの病気なのかってことを訊きたいんだけど」
「患部の赤黒さからしてまず間違いなく感染症だよ、最近ちゃんと休みとってる? 」
「全然休めてないけどなにか?」
「疲労で免疫が下がってるところへなんらかの菌が侵入して感染したんだろ」
「とにかく抗生剤を点滴して、一週間薬を服用して、血液検査結果を待つしかないな」
感染症だの、免疫だの、点滴だの、抗生剤だの普段馴染みのない言葉を聞かされて。
病気そのものよりもこういった言葉にとても弱い。
もう俺は駄目なのかもしれない、ひょっとしたら膝から下を切り落とさなければならないのかも。
悶々とした一週間が過ぎ。
「どう?まだ痛い?」
「痛くないけど、ちょっと痛い」
「まぁ、どっちでも良いわぁ、とにかく感染症だな、血液検査でもCRP値がこんなに高いんだから」
なるほど正常値の範囲を超えて高いことを示す( H )が記されている。
あれ?もう一箇所( H )と記載されているけど。
正常値 三◯ 〜 一四九 mg/dl のところが 三一九 mg/dl って。
ダブル・スコアじゃん!
なんだぁ?これ?
項目を見ると中性脂肪とある。
「先生、これってまずくないの?」
「あぁ、ちょっと高いなぁ、でも知らねぇ」
「ちょっとって倍じゃん!知らねぇって医者だろ?」
「あんたほんと馬鹿なの?」
「感染症で整形外科に来て治ったら今度は中性脂肪が高いって文句言われても、知らねぇつうの!」
念のためにと処方された三日分の抗生剤を受取りに調剤薬局へ。
担当してくれた可愛い薬剤師に訊いた。
「あのさぁ、これ見てくれるかなぁ、中性脂肪とかっていうやつがほらこんなに」
最近の薬剤師って可愛い子が多いのかなぁ、隣の子もなかなかに可愛い。
「プッ!そうは見えないですけど、結構脂身体質なんですねぇ」
脂身って、可愛い顔して結構エグい表現するおねぇちゃんだ。
「で、どうなんの俺?」
「脂質異常症ですから、改善されないと動脈硬化や脳卒中になりますねぇ」
「じゃぁ、俺、もうお陀仏かもしれないってこと?」
「まぁまぁ、中性脂肪値は採血のタイミングでブレやすいですから、もう一度検査されてね」
「はいはい、じゃぁ、これちゃんと服用して、お大事に」
ツレない女だ。
もう、オッさんの身体なんて、医者もおねぇちゃんもなんの興味もないってことかぁ。

それにしても、中性脂肪をこんなに内部留保していたとは気付かなかったなぁ。

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