四百五話 This is “ THE CLIMAX BAG ”

噺ばっかりで、ほんとうに出来るのか?
僕は、相当にいい加減な人間で嘘もよくつくけど。
製作依頼を聞き届けて下さった後藤恵一郎さんは百戦練磨の腕と才を持った方だ。
紆余曲折に見舞われても、こうして文句のつけようもない狙い通りの鞄に行着く。
そして、これが、 THE CLMAX BAG です。
軽くて、しなやかに強い鹿革で創られた鞄です。
この鞄について、くどい講釈を披露するつもりはない。
難点だけをお伝えいたします。
この鞄は、伽琲の搾り滓を用い手作業で染められている。
そのため伽琲の香が当初残るが、時間の経過とともに匂わなくなっていく。
この染色手法は、一九世紀末英国軍兵士によって産み出され Chino Pants に施された。
また、染色過程に於いて鹿革の油分が逃げカサついた風合いに仕上がっている。
この乾いた質感も、使っていただくにつれ鹿革本来のウェットで柔らかな風合いに戻っていく。
鹿革で創られた THE CLMAX BAG は、一般的に馴染みのあるモノではない。
凡庸な面構えとは裏腹に独特な歳の重ね方を魅せてくれると思う。
僕は、モノが朽ちてゆく姿が最も美しいと思いながら仕事をしてきた。
だから、朽ちる前に用を為さなくなるようなモノは全て単なる消耗品と認識している。
そんな消耗品を商うようになるくらいだったら、この稼業をやめる。
綺麗事のように聞こえるだろうけれど、本音でもある。

そういう想いも込めて、本作を Musée du Dragon として最期の鞄とさせていただきます。

 

カテゴリー:   パーマリンク