三百九十九話 昭和な伽哩

三百九十八話 “ ご当地伽哩 ” からの続きです。
戴いたチャンピオン伽哩の封を開けて鍋に移す。
普通の伽哩ルーに比べるとドロッとしていて重く感じる。
噂では濃厚だと聞いたが、なるほど見かけからしてそうだ。
どうせなら、本場金沢伽哩と同じように喰いたい。
まず、炊きたての白飯にルーをかける。
白飯が顔を出さないようにたっぷりとルーを盛らなければならない。
次に、揚げたフィレカツを載せる。
そして、豚カツ・ソースをフィレカツだけにかかるようにして。
後は、付け合わせとしてキャベツの千切りを盛付けるといった段取りである。
もう少し本格的に設えるのであれば。
盛り皿はステンレス製で、スプーンは先がフォーク状に割れたものを用意すべきなのだそうだが。
残念ながら、ステンレス製の皿も先割れスプーンも自宅にはなかった。
陶製の皿と普通のスプーンで我慢するしかない。
少々、本格金沢伽哩としての風情は欠いたけれど。
まぁ、皿と匙で味が損なわれるということもないだろう。
食べてみた。
憶えのある懐かしい味である。
昭和の伽哩、それも三◯年代後半の味だ。
親に連れられて行った百貨店の大食堂で出された伽哩の味はこんなだった。
それこそ銀色の皿に盛られていて。
母親が家で創る伽哩とは違ったよそいきの味と香りがした。
この味は、一九六◯年頃に生まれたひとにとっては堪らない味だと思う。
Soulful Food で、癖になる。
ところで。
僕にとって、伽哩という食物に旨い不味いは存在しない。
と言うか、もし不味い伽哩というものがあるのであれば一度食ってみたいものだ。
印度、英国、香港、仏蘭西、日本など、大凡世界中どんな国にも伽哩はある。
スタイルは全く異なるが、伽哩は伽哩でそれなりに旨い。
あの Fish & Chips をご馳走だと言切るどうしようもない英国人ですら、伽哩だけは不味くならない。
高級な飯屋でも大衆食堂でも、どこで食っても伽哩は旨い。
高級洋食屋、駅中食堂、饂飩屋、遊園地、学食など。
どこででも食えないほど不味い伽哩と遭遇するのは難しい。
だが、どんなに食っても食べ飽きない馴染んだ伽哩となるとそう出逢えるものではない。
ひとそれぞれ好みというものがあって。
スパイス配合がどうの、具材がどうの、隠し味がどうのといきなり厄介な話になったりもする。
そういった意味に於いて、このチャンピオン伽哩の昭和な味は妙に後を引く。
さらに、このハクション大魔王みたいなキャラクターにも何故か親しみが湧く。

なので、ハクション大魔王がわかる方は是非一度お試しください。

 

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