三百九十一話 二◯一五年秋冬物を始めます。

Musée du Dragon をいつまでやるのか?
そうやって気に掛けて戴けるのはとても有難いたいのだけれど。
毎日のように訊かれる。
正直に言って、何年何月何日と決めているわけではありません。
というよりなかなか決められないでいる。
四◯年近く同じ場所で同じような商いをやっていると。
「じゃぁ、この辺でやめときます」
「はいそうですか」
とはいかないみたいだ。
もっと簡単にとっとと幕を引けると思っていたけど考えが甘かったようである。
しかし、早晩やめるという腹には変わりはない。
だから、稼業に対する気構えもこれまでと少し違ってくる。
服屋の商いは、店主のやりたいようにやっていれば良いというものではない。
好きでやりたい事と、嫌でもやらなければならない事を天秤に掛けながら商っていくものだと思う。
二割がやりたい事で、八割がやらなければならない事。
振返ってみればそんな感じだったんじゃないかなぁ。
でも、これから先は少し我を通させてもらいたいと考えている。
やりたい事をやりたいようにやりたい人とやる。
また、この国の職人が置かれている環境を想うと今やらなければもう後がないような気もする。
まぁ、ロートルのポンコツがやることなので、どこまでの出来になるかは保証できないのだが。
期待せず気軽にお付合いください。
さて、そんななか二◯一五年秋冬を始めさせて戴きます。
幕開けは The Crooked Tailor の狂った逸品からです。
素材の不思議な凹凸感は、六層に重ねて織ることで生まれます。
六重織ガーゼ素材?
仕立てた後、一点一点アトリエで自らの手で縮絨したらしい。
もうつける薬すら見当たらないくらいに病んでいる。
シャツなのか?ジャケットなのか?編物なのか?織物なのか?
意味不明のアイテムではあるが、抜群の着心地を実現している。

創ったのは、仕立職人でありデザイナーでもある中村冴希君です。

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