三百七十九話 肉と景気の事情

最近巷では赤身肉が流行っているらしい。
どうやら女子の美容に関わって、そうなっているのだそうである。
炭水化物・脂質・蛋白質と、これがいわゆる三大栄養素で。
この三つをバランス良く摂取することで、初めて燃焼する身体になるのだという。
そして、この蛋白質の源となるのが肉なのだ。
そうです!これこそが真実なんです!
実は、肉を食べたほうが痩せやすいんです。
「うるさいよ!朝から!今まで肉を与えてきて痩せた試しなんかないじゃん!馬鹿じゃないの?」
こういう昭和的考えから脱け出せない嫁の妄言に耳を貸してはならない。
さらに、最新の肉事情を探ってみよう。
肉を喰って痩せると言っても、どんな肉でも良いというわけではない。
霜降り肉では駄目らしく、そこで注目されるのが赤身肉の存在である。
赤身肉には、脂肪燃焼を促すカルニチンが豊富に含まれている。
肉を食べると身体が熱くなった気がする。
これは、消化に必要なエネルギーを消費するからなんだと。
つまり、代謝が上昇するという理屈だ。
この人体の神秘に目を背けてはならない。
積極的にこの真実を受入れよう。
最近の肉事情に於いて、もうひとつ見逃してはならない存在がある。
熟成肉が再注目されているらしい。
バブル期以前の肉事情に通じている方々には、“ 枝枯し ” と言った方が通じ易いかもしれない。
厳密には、全くの “ 枝枯し ” ではないらしいがよく似た要領みたいである。
温度・湿度・風量を厳密に管理しながら、四◯日間ほど肉の塊を熟成させる。
そうすると、肉が含む余分な水分が飛び、蛋白質やミネラルが凝縮して旨みを増す。
バブル期に嗅いだナッツのようなあのまろやかな香りの正体である。
かつて “ 枝枯し ” は景気の物差しだと言った北新地の料理人がいたことを思い出した。
熟成過程で水分が減り、黴が生えた表面を削り落とすと、目方が減り歩留まりも悪くなる。
結果、かかった手間賃を含め通常の五割増しの値で供することになる。
ごれが、バブル崩壊後 “ 枝枯し ” を目にしなくなった理由である。
その “ 枝枯し ” が “ 熟成肉 ” と名を変え、再び市場で流行っているという事象は何を予感させるのか?
またあの馬鹿げた時代の到来を告げているのかもしれない。
もしそうだったら、それはそれでちょっと楽しみではある。

しかし目下の関心は、肉を喰えば痩せるという発見についてだけど。

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