三百六十七話 これって何?

foot the coacher から妙なものがやってきた。
そういえば、こんなものを仕入れた憶えがあるようなないような。
少なくとも、これが何だかは思い出した。
昨年の秋口に、竹ヵ原敏之介君から聞いた。
この樫の棒切れを握って、コキコキ腕を上げ下げするとちょっとした運動になるという。
机上で考え事をするときなどに良いらしい。
要はこれ、一キロのダンベルなのだ。
それ以上でもない、それ以下でもない、ただの棒切れのように見える重しに過ぎない。
開発に二年だか三年だかを費やしたのだそうだ。
あんたは、暇なのか?
「それにしても、この継目のない樫の棒切れにどうやって鋼の重しを仕込んだの?」
「そこですよ、知りたいですか?」
「いや、別に知りたくない」
「知ったところで、多分なんの役にも立ちそうにないから」
ペーパー・ウエイトにでもと考えたが転がってしまって使えない。
護身用の武器には短すぎるだろう。
やっぱりダンベル以外の使い道はなさそうである。
ただコキコキやっていると、不思議と癖になり心地良く感じてくる。
顧客の方も。
「これ、ダンベルなんですけど如何ですか?」
「ふ〜ん」
別にたいして興味もなさそうだったけど、他の話をされながらコキコキやっておられる。
「これって、なんだかコキコキやってると落着くね」
「でしょ? 良い感じでしょ? おひとつ買って戴けますぅ?」
「いや、いらない」

ちぇっ!

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