十四話 LE HAVRE The Longest Day

夜中に、HONFLEURから、拠点となるLE HAVREに戻って来た。
明日はパリなので、慌ただしかった旅の最後の晩となる。
北の人間の土地という意味に由来するNORMANDY。
百年戦争以来、戦乱と災厄の地でもあった事を想う。
一九四四年 六月五日 二十一時十五分、ラジオからヴェルレーヌの⎡秋の歌⎦が流れる。
“身にしみて、ひたるように、うら悲し。” 第一節の後半部分である。
“Operation Overlord” 史上最大の作戦をレジスタンスに告げる暗号電文。
一番長い日は、翌六日に幕を開ける。
連合軍最高司令官、バーナード・モンゴメリー元帥は言った。
⎡Atlantic Wall 大西洋の壁といわれる独国防要塞群の中で、
最強にして最悪は、LE HAVREだ。⎦
上陸から三ヵ月後の九月十日、命令を下す。
LE HAVRE 奪還を目的としたOperation Astonia アストニア作戦は始まった。
容赦ない空爆と艦砲射撃に曝され、街は灰燼と化す。
民間の被害が、軍の被害を圧倒した戦となった。
戦争は、活劇ではない。
家族や住いを失った北の民、ノルマン人。
彼等が、上陸してきた解放者と称する加害者を、
旗を降って歓迎する姿など、僕には想像出来ない。
戦後、セーヌ右岸の港湾都市の再建が一人の建築家に託される。
オーギュスト・ペレ 近代建築の巨人である。
整然とキュービックが立ち並ぶ新生LE HAVRE。
二〇〇五年世界文化遺産に登録される。
宿の窓から、ペレの最高傑作といわれる教会を見上げる。
夕日に輝く、美しい墓標にも思える。

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