二十七話 rust

少し前になるが、rust に行った。
英国の accessory brand なのだが、デザイナーは英国に長く住む日本人である。
十年来の付き合いで、まだ Naohito Utsumi の名で発表していた時分からになる。
パリで会っていたのだが、彼がロンドンから出て来なくなって少し疎遠になっていた。
この日は、rust tokyo で、日本側の責任者である馬場君に会う。
この人の噂は、顧客の方からよく聞く、素晴らしい接客らしい。
なるほど、物腰が柔らかく、そつが無い。
私は、十五年も経っているのに全然慣れない、たまに接客すると店から怒られる。
これでも、日々可愛く、愛想良くなるように努力しているつもりなのだが。
報われない。
さて、今回は、⎡鎖⎦をテーマに英国銀細工を Musée du Dragon で展開したいという依頼である。
例えば、bracelet,wallet chain……….。
rust としては、製作に三ヵ月ほど要するらしい。
さまざまな chain を使ったアイテムを秋にはお見せ出来ると思う。
デザイナーの内海君と最初に会った時の事を思い出す。
いきなり、英国銀細工の歴史と系譜を語り出した。
ウィンザー様式がどうの、アルバート公の chain がどうだったの、
果ては英国の狩猟史にまで話が及ぶ。
商品説明の限度はとうに超えて、ほとんど英国史の講義だった。
英国人バック・デザイナーの Jas M.B. が、側で苦笑いしていたのを憶えている。
しかし、この偏執的ともいえる情熱こそが rust の魅力だと思う。
私自身、彼の作品と出会うまでアクセサリーというものを一切身につけなかった。
ものを描く時に邪魔になるからという理由で。
それが今では、rust の bracelet と ring が肌身から離れる時がない。
彼のデビュー作だから、もう随分になる。
この品にも何かの言われがあると内海君は語っていたが、忘れてしまった。
近いうちに、Professor Ustumi の講義を再受講しなければならない。

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